赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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い方をする時の彼はナニカを隠している。
詳しく聞いても躱して煙に巻くだろう。秋斗は自分の事をあまり話したがらないし、朔夜も深く聞きたくない。
それでも不満は湧き立つ。きゅむきゅむと何度も自身の手を握った。気を紛らわす為のいつもの癖。今回は……抑え切れずに彼の手を握った。
大きな掌に小さな掌を重ねて、握って良かったと心底思った。彼の手が震えていたから。
――月姉さまのように癒せたらいいんですが……。
少女の想い儚く……するりとすり抜けた温もり。彼はすぐその手を離した。
「あ……」
――どうして?
落ちそうになった言葉を呑み込む。ぎゅうと眉を寄せて、悲哀のままにじっと彼を見つめた。
首を向けただけで合わされた視線に、息を呑む。渦巻く黒に吸い込まれてしまいそう。
「……朔夜、敵軍撤退の時に追撃するなら俺が出たい。いいか?」
浮かぶのは初めて見た感情の色。昏い暗いその色は、寒気がする程に冷たかった。
「きゃ、却下、です。秋兄様は出てはダメ、です」
「何故、と聞いても?」
薄く裂かれた口、纏わりつく声音にぞくぞくと這い上がるのは恐れであった。彼を失う事よりも、彼を突き動かしているその感情に恐ろしさを感じた。
――あなたは、誰、ですか?
どうにか呑み込んだ言葉。此処にいる秋斗が別人に感じてしまう。濁った瞳も、薄く浮かんだ笑みも、黒麒麟を演じようとしている時とも違う異な姿。
僅かに目を逸らして、代わりに放つのは彼を呼び戻す為の方策。
「……逆に聞きます。何故出たいのか、利の面で説明してください」
怯えたままでもう一度視線を合わせ、じっと見つめ続けると、彼は目を瞑ってため息を吐いた。後に開いた目には、もう昏さは見当たらない。
「……うん、俺が出る利は無いな。すまん」
落ち着いた様子にほっと一息。
計画上、彼が此処で打って出る利は全くない。あるとすれば記憶が戻るかどうかだが、この官渡が終われば張コウを手に入れられると踏んでいるのだから無理せずとも待てばいいのだ。
彼を動かすような昏い感情で思い至るのは……憎しみ、といった所。しかし月から聞いた黒麒麟が、誰かに憎しみを持つとは思えない。
「張コウが、憎いんですか?」
「……どうやらそうらしい。過去のぶっ壊れてた俺が誰かを憎んでたとは月も言ってなかったし、俺もそうだと思うんだがなぁ」
尋ねても頭をがしがしと掻いて悩む秋斗。彼に分からない事が朔夜に分かるはずがない。
先ほどの彼は別人のようだった。普段の切り替わりとは違う。彼でない誰かが乗り移ったかのような……そんな気がした。
――怖い……あなたが“人”から外れて行くのが、怖い、です。
知りたいとは思う。朔夜は彼の苦し
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