赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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だ。
あの時は三人。白馬の王と片腕と昇龍がそうやってこちらに敵意を向けていた。
今回は一人。黒だけがこちらに残虐な笑みを向けていた。
心が逸った。逃げ出したくなった。このまま此処にいるなと脳髄に怯えが染み渡る。
――ああ、これはあの戦の続き……あの時あの場所に居れなかった悔いを、黒麒麟は此処で返すつもりなのかもしれない。
言いようのない不安が胸を締め付け、冷や汗がどっと噴き出した。されども、斗詩は勝つ事よりも生き残ることだけに意識を向ける。
ゆっくり、ゆっくりと振り下ろされた長剣、ぴたりと向けられた切っ先の鋭さに、彼女は大きく息を吸い込んだ。
†
「アレはまだ放っておいていい」
零された黒の言にも疑問を上げず、真桜自慢の工作兵達はただ時を待つ。
熱を帯び始めた城門。焼ければ木が脆くなるは必然。そこに何度もバリスタでの射撃を打ち込まれては直ぐに決壊するであろう。
しかし彼はその程度の事は気にしないでいいと言った。城門が壊れるなど、この官渡の要塞に於いてはなんら問題にはならない、と。兵達に不安はあるが、それでも黒麒麟が言うならと抑え込んで焦りを打ち消せる。
隣に侍るのは既に朔夜だけ。真桜は風の向かった西門の指揮に向かっていた。
矢の一本さえ飛んで来ずに城門が破壊される……通常の攻城戦ならば有り得ない事態ではあるが、すっと剣を降ろし、城壁の端から降りた秋斗は緩い表情でのんびりと構えている……ように見せていた。
「……これでいいか?」
「はい。目立つ行動を、して何もしないというのは、それだけで効果を上げられます。敵の思考を縛り、時間を使わせれば他の被害を増やせますから」
「クク、肩透かし、拍子抜けってわけだ。おもしれぇ」
「虚を織り交ぜ、隙が出来た所に実の一撃を。戦の常道、です」
「同時に敵の有力な指揮官を封じる、か。まあ、寄って来ても問題は無いわな」
「むしろ出てきた、方が多くを殺せますから来て欲しい。此処は蜘蛛の巣です」
「蜘蛛の巣、ね……ならあいつくらい捕まえたい」
そう言って指差すのは赤い髪の女。顔を向けようともしない彼に、朔夜は少しだけ近寄った。
目を凝らして見てみれば、自分には無いたわわな果実が実っていた。鎧の膨らみからその大きさが見て取れて、むうっと口を尖らせる。さすがに口には出さなかったが。
「……情報通りなら、あれが張コウ、ですね」
「ああ、俺の真名を呼んだっていう張コウだ」
意味深な言い方。不安を覚えた朔夜は彼に顔を向けるも、渦巻く黒からはいつものようには心が読み取れない。
「何か、思い出したんですか?」
「……重要かもしれんって感覚だけだ。他には何も」
嘘だ、と直ぐに分かる。こういう言
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