赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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やなに、偶に頭が痛くてな。古傷が痛むって感じだ」
「ふーん。そうなんだ」
探る視線を向けられても、彼は動じなかった。
あなたは同じです、と白銀の少女が言ってくれたから、彼は自分の思い描くままで黒麒麟を演じ始める。
「伝えてくれてありがと。ただ、その時の戦とこの戦は別の話だ。俺は欲しいもんがあって戦ってるわけで……俺からもお前さんに話しておくべき事がある」
不敵な笑みに黒瞳が渦巻く。脳髄は冬枯れた古池の如く静かに、そして冷たかった。
「ふふっ、いいね、それでこそ秋兄だよ♪ なにー?」
愛らしく首を傾げる彼女の目も、聡明な輝きに昏さが宿っていた。
喉を鳴らす。欲しいと思った。殺したい程憎いモノを生かすのも、彼が思い描く世界には必要な事である為に。自分以外の誰かにもそれを強いる事になる。そうしなければ、戦争の後には一人の人も生きられない。
覇王と彼の思惑は一致していた。彼が目指す世界と覇王が目指す世界が同じだから、この官渡の戦いの全ては蜘蛛の巣となったのだ。
彼は知っている。彼女が本来辿るべき道筋を知っている。だから、彼はこの時に楔を打とうと決めた。
「袁家を裏切れ、紅揚羽。覇王と俺はお前が欲しい。お前の大事なもんを乱世で死なせない為には、早い内に裏切るべきだ。
まあ、鎖を付けられているのは知っているが、それでもお前さんにはこっちに来てほしいよ」
情報は何よりの宝。桂花と夕、そして明の関係は曹操軍の重鎮達に知れ渡っている。
その情報が無くとも、彼だけは混ぜ込みたい思惑がある。もし、このおかしな世界でも細かい予定調和が保たれるなら……捻じ曲げてやろう、と。
張コウという将が曹操軍に加わったのは官渡の戦で……そして田豊という軍師が命を散らしたのは官渡最中の諍いによりて。
公孫賛を生かして残せたのが黒麒麟の介入による最大の成果であるならば、今の彼が捻じ曲げれば田豊をも救う事が出来るだろう……彼の思惑、否、指標はそういった点を基準にしている。
自分の都合で生かして殺す。正史で失われる才人を一人でも多く生かし、後の世に強固なる平穏を……であるからして、彼も黒麒麟も、華琳と同じ先を見る事が出来た。
「……あはっ♪」
キョトン、と目を丸くして呆けた後、楽しげに彼女は笑った。彼の方からそう言ってくれるとは思わなくて。そして夕の考える一手に、そういった策も含まれているのだと読み解けて。
――なるほど……確かに覇王に一番効く策があるね。此れを使わない手は無い。でも……いいなぁ、そんな“もしも”があったなら……
明は彼を少しだけ羨ましく感じた。もはや黒麒麟に鎖は無く、自由に好きな事が出来るから。
そっちに行けば、どれだけ幸せなんだろうか。もっと早い内からそっちに行けて
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