オシマイシマイの止まない雨
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』と、自覚するまでに彼女は回復していたのである。提督は山城の傍に近寄った。すまない、すまない、私は何もできなかった、すまない――と言い、強く握りながら、熱い涙を流していた。山城は少し困ったような顔をして提督の涙を受け入れていた。
ここまで、長かった。僕の三年間も、ようやく報われた。もう誰にも恥じることなく、君は仲間に戻れるんだよ。これからは僕と、一緒に戦おう。仲間たちと一緒に戦おう。君を禁忌のように扱った仲間にも、その元気な顔を見せてあげてほしい。きっと、受け入れてくれるはずだ。そう、僕が言いかけた時のことだった。
「提督、この戦艦『扶桑』、復帰したからには、一生懸命、働きますね」
瞬間、空気が凍った。扉が音を立てて閉まる。そして、静寂すらも凍り付く。
――彼女が隔離されていた三年間、髪の手入れはされておらず、山城の髪は腰の辺りまで伸びていた。僕はそれを似合うと言ったけれど、彼女の目には、彼女の手鏡には――ロングヘアーの山城ならぬ、『扶桑』が映っていたのだろう。
この三年間で、
ゆるやかに、
彼女は、
彼女では、
なくなっていた。
彼女はどれだけ、姉を失って辛かったのか。どれだけの自分を失って、姉のことを愛し続けたのか――僕は何もわかっていなかった。文字通り自らを差し出して、自分を姉として仮初めの自我を作り出した彼女を、僕はどうすればいいのかわからない。もう、やめてくれ。もう、疲れただろう?もう、いいだろう……?
僕と提督と『扶桑』が黙り、その中で唯一、換気扇だけが調子を取り戻して唸った。
……ブウウウ…………ンン…………ンンン…………。
(了)
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