オシマイシマイの止まない雨
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う名目こそあったが、それは体のいい隔離であり、提督にとっては白旗を振ったことと同義であった。山城を厄介者扱いしていた者も内心、喜んでいたと思う。現に、既に山城の部屋は既に直っているのに彼女はまだ戻れてはいない。彼女は実に三年間、あの部屋に隔離されているのであった。
しかし、僕は、彼女は愛がただ深すぎただけで、隔離までされるほどのことをしていないと思った。いっそのこと、解体の方が温情のある措置だと思う。しかし――上官のことを悪く言ってはよくないが――下手に情に厚い提督の下に着任したのが、山城の運の悪さだったのかもしれない。
数ヶ月で、彼女はいるのかいないのかすらわからない存在になってしまい、終いには、事実を知らない者や入って間もない者の間では「夜中に部屋の外に出ると正体不明の艦娘の啜り泣く声が聞こえる」という不謹慎な噂すら流れるようになった。
僕はそれが許せなくなって、彼女との定期的な面会を申し出た。提督にとってはそれは僥倖だっただろう。僕が彼女を元に戻すことができれば万々歳だし、そうでなくても、彼女の面倒を自分の代わりに看てくれる者が現れたのだから。
こうして、僕は折りを見ては彼女に会いに行くことになったのである。
僕は医務室から出ると、急いで司令室まで走って、ノックをする。入ってもいいという男性の声が聞こえたので、礼をして中に入り、敬礼をする。それから、提督に山城の様子を話すと、ありがとうと頭を下げた。
提督は、都合のいいことを言うようだが、私も会いに行ってもいいだろうか、と聞いてきたので、僕は、ちょうど山城には提督を連れて行くと伝えたところだよ、と返した。
僕は司令官室を出てから、アイスクリームをひとつ買った。そこで初めて、自分が浮き足立っているのだと気付いたのであった。
◆
翌日のことである。
僕が提督の袖を引っ張って、離れの医務室まで足早に向かう。僕が扉を開けると彼女は隠れるでもなく、寝ているでもなく、扉の前に立っていた。何も言わずとも、それが彼女の回復の度合いを表していた。
山城……彼女はどれだけ、姉を失って辛かったのか。どれだけの自分を失って、姉のことを愛し続けたのか。彼女の一途さを思うだけで、何度も胸に痛みが走ったものである。しかし、彼女はようやく、一歩前に踏み出したのだ。茨の道だったその一歩を、血を流しながら踏み出したのである。彼女の止まっていた時が、ようやく進んでいた。僕は感極まって、暖かいものが頬を伝うのを抑えきれなかった。
僕は深呼吸をして、いつもどおり声をかけた。
「どうだい、調子の方は」
「すっかりいいわ。提督、ご迷惑をおかけしました。そろそろ私をここから出してくださらないかしら? 身体が鈍ってしまって――」
提督が、おお、と声を上げる。『そろそろ』と、『身体が鈍る
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