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オシマイシマイの止まない雨
オシマイシマイの止まない雨
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城は鎮守府にいて、秘書艦を務めていた。司令室にある無線に大きな雑音が混じったと思えば、扶桑の沈んでいった様子が聞こえたのだという。その声は、最期まで山城を案じていたそうだ。
 山城は半狂乱になって一人で海に出ようとしたが、提督が、長門が、陸奥が、そうさせなかった。じきに一人減った艦隊が戻ってきてから、毎日、姉様はどこにいるの、どこにいるの――と譫言を呟きながら徘徊をするようになった。それは、止めようにも誰にも止められないほど痛々しい姿だった。山城を元気づけようとした者もいたが、彼女はすべてを拒絶した。あなたにはわからない、あなたも失くしてみなさいよ、大事な姉妹を、愛しい人を――と。当然、彼女は周りから孤立していった。同情の対象から艦隊の厄介者になっていったのは言うまでもない。
 通常、迷惑をかける艦娘なんて解体処分ないし雷撃処分になるのが普通であるが、提督はそれができなかった。提督も人の情があったのだろう。あるいは、自分の指揮で扶桑が沈んだことへの、罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。
 ある日、提督は言った。
「私が壊したものは、私が治してみせる」
 と。
 しかし、彼女の心はすでに割れて、散逸して、どうしようもなくなっていて、唯一、彼女を癒やすことのできる姉は海の底にいるのである。それでも提督は、一生懸命、様々な方法を試したと思う。根気よく彼女に話しかけたり、執務が忙しい中、彼女がする益体もない昔話を嫌な顔もせずに聞いてやったりした。時にはヒステリーを起こし、時には反応なく泣き続ける彼女の相手を務めては、疲弊の二文字を貼り付けて司令室に座り込む姿を何度も見かけた。
 しかし、提督の努力空しく、彼女は一向に良くならなかった。
 そこで提督は精神科医を山城の部屋に呼び、彼女を診てもらうことになった。とはいえ、世界的にも少ない艦娘の精神を診ることができる医者などいるわけがない。それは飽くまで人間を診る医者であった。
 精神科医は、様々なことを聞いた。
 精神科医は、様々な薬を投与した。
 精神科医は、職業に殉じて――禁忌に触れた。
 精神科医は、彼女に、扶桑が沈んだことを受け入れるよう説得したのだ。それから彼女は――流石の戦艦と言えば皮肉になるが、その精神科医を破壊した。彼女は部屋の中で主砲を撃ったのである。あの時の轟音は、相当離れた僕の部屋にまで届いていた。間近で受けた人間なんかはひとたまりもない。彼女の部屋ですら、壁一面を窓にできるくらいには穴が開いたのだ。精神科医はどこが足でどこが顔だったのかすら、判別がつかなくなってしまっていた。
 そうして、彼女は住むところがなくなり、鎮守府の離れにある、人間が治療をするための施設である医務室に移されることになったのだった。万が一、また鎮守府内で主砲を撃つようなことがあれば大事故になるとい
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