オシマイシマイの止まない雨
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たような顔をしてから、また笑顔になって了承し、明日はきっと提督も連れてくるよ、と言い、扉を開けた。
「それじゃあね――」
誰もいなくなった部屋からは、換気扇がブウゥーーーンンと鳴る音と私だけが残された。
2
僕が医務室に入ると、山城がいつものところに隠れていたので、僕は声をかけた。僕はそのいつものやり取りを通じて、彼女の様態は良くなっていないのだな、という失望を感じる。僕が医務室に入った時、彼女は僕を敵と思って隠れるか、寝ているかのどちらかなので、ベッドの上さえ見ていれば彼女がどこにいるのかは消去法でわかった。
「どうだい、調子の方は」
僕がいつもどおりベッドに座って、いつも言っている言葉を言うと、山城はいつもどおりの様子で言った。
「別にどこも悪くないわ」
これも、予想の範疇、というか、何度もしているやり取りである。どうせなら自室で休ませろ、という愚痴まで含めて、もう、本当に、何度目だっただろうか。嫌になるくらい、同じだった。
ただ、今日は山城の様子に変化があった。彼女の口から『こんなところに長い間詰めておくなんて』という言葉が出たのだった。その言葉に、僕が吃驚しないわけがなかった。止まっている彼女の時が動き出したように思えた。徒労に思えた僕の見舞いが、功を奏したように思えたのだ。
しかし――僕は最終的には山城の記憶を取り戻すつもりではあるのだけれど、それには慎重さが必要なこともわかっているので、今日のところはこれでいいと思った。山城から興味を引き出すためにわざと一週間前の話をしたところ、元々頭のいい彼女のことなので、何かを察したようで『私はここにどのくらいいるのかしら』という質問をしていた。僕の、この時の嬉しさを表すとすれば、芽の出ない種に水をあげ続けていてようやく芽を出したというところである。
彼女は、記憶を取り戻してきている。
同時に、僕が恐れていたのは、このまま山城が今日を忘れて元の木阿弥になってしまうことであった。そのために、持っていた手鏡をあげたのである。『時雨から手鏡をもらった』という、抑揚のない日常に刺激を与える意味は当然あったが、欲を言えば彼女が自身の髪の長さを見て、医務室に隔離されていた期間を察してもらえるのではないか――という期待もあった。また、提督に秘密で物を渡すことによって、彼女が『時雨を手玉に取った』と思ってくれれば、しめたものだ。そうやって僕を出し抜いた気になってくれた方が、彼女の気が紛れる。僕はそれでよかった。山城とは、一緒に戦った仲間なのである。たとえ、馬鹿にされたとしても、彼女が僕を謀ったつもりでいても、僕は山城が元に戻るのであれば、それでいい。
◆
山城が愛している姉――扶桑が沈んだ。
事の起こりを端的に表すならば、そういうことになる。その時、山
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