オシマイシマイの止まない雨
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が活躍した時に私は何をしていたのかしら、と。
「さあ、僕も夕立と一緒に戦闘に出ていたから、詳しいことはわからないよ」
彼女は何かを警戒するように、不要なことを喋らないよう、簡潔に告げる。こういうところも忠犬のようだと思った。もしかしたら、彼女は提督から何か命令を受けて私の元に来たのかもしれない。しかし、それにしては伸びた髪の話くらいしかしていないのだった。いまいち、彼女がどういうつもりで見舞いに来たのかが量れない。
忠犬ゆえに、彼女が一度警戒をすれば、隠していることを聞き出すのは難しいだろう。私がどんな手を尽くそうと、彼女の油断を解くことはできず、却って警戒を強めることになるかもしれない。今日はここで手仕舞いだと見切りをつける。ただ、収穫がまったくなかったかといえば、そういうわけでもなかった。彼女は先の発言を失言だと思った時点で――それを私に気取られた時点で――私の記憶はどこかの地点で失われていることは明白であった。だから私は傷を治すドックではなく、この部屋にいるのだ。きっと、この予想は当たらずも遠からず、と言ったところだろう。
「ここって、鏡はないのかしらね。本当、殺風景なこと……」
時雨が制服の中のポケットから、小さな手鏡を出す。こういった女性らしい小物を持っているところを見ると、彼女は幼くは見えるが年頃の女性なのだな、と思う。手鏡を受け取って顔を覗くと、そこには前髪も後ろ髪も少しだけ長くなった私が映っている。この長くなった髪の分、私はここにいたのだろうか。
もっとも、それがどのくらいの期間かはわからない。精々が一ヶ月程度だろうか。このくらいで髪が伸びたという時雨は神経質だと思う。彼女は髪が短いから、感覚が違うのかもしれない。
私は、ありがとう、とその手鏡を彼女に返す。彼女はその手鏡を押し返すと、この部屋には鏡がないから持っていていいよ、提督には内緒にしてね、と言ってにこりと笑む。こういう、柴犬のような表情は夕立そっくりだ。
私は、彼女は提督の忠犬だと思っていたが、秘密で物を渡してくれるくらいには、私の味方でもあることがわかった。ならば、いつでもいい。いつかまた時雨が来た日にでもこっそり、私はいつからここにいるのかを、そして何故ここにいるのかを、聞けばいいのである。私にしては、運がいい。いや、これは不幸中の幸い、というものか――。
時雨は、そろそろ行かなきゃ、と立ち上がった。テレビもラジオもないここでは彼女と話すことが唯一の娯楽なので名残惜しいが、いつまでも引き止めておくわけにもいくまい。
「明日も来るよ」
と時雨が言う。私はそれを受けて彼女に返事をする。
「ええ、私は暇にしてるからいつでも来てちょうだい。あと、提督には『私はもう元気ですから、早く前線で戦わせてください』と伝えてくれないかしら」
時雨は困っ
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