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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
08話 焦燥
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がさす、大戦の過ちをまた繰り返すか。」

 執務机から立つ、そして窓の外を見やる。

 ――日本帝国は今や、存亡の危機に瀕している。数千万の死者を出し明日をも知れぬ消耗戦の最中―――それだけの被害を出しても日本は変わらなかった。
 空前絶後のパラダイムシフトを経験したはずだというのに……未だに身内同士で足の引っ張り合い。

 そして、当事者だというのに被害者気取りの大衆と、ぎゃあぎゃあと非人道的だの何だのと其れを煽り立てる糞マスコミ共。
 何が人道か、何が平和主義か―――そんなものは間接的な虐殺でしかない。

(―――まったく、今のままでは民主主義の特性通り、最悪を回避し続けたまま国家が緩慢に自殺してゆくだけだ……責任を取りたくない政治家何ぞ癌細胞とそう大差ない。)

 今のままでは、国家と民族の(ゆる)やかな死が待っている。
 如何に軍人としての本分を全うしていても、政治という脳を民主主義やら人道やらの癌に犯されたままではその戦い、これまでに流れた流血すべてが水泡となりこれから生まれてくる命の未来が無い。

 ―――日本をアメリカの一州とするのなら生存の道はあるだろうが、それは日本を殺した上でだ……形振り構わない、生命が生き残るだけならそれも選択肢だろう。
 だが、それは日本人としての誇りも何もかもを捨てることと同義だ―――命だけ生き残ってもそれでは何の意味もない。

 国家とは今を生きる者だけに非ず、既に逝った者、そして之から生まれてくる者たち、そのすべての組合だ。
 先祖たちが積み上げてきた、日本という国を捨てることは……例え大衆が望んでも、“俺が”決して許さない。

(さて、我が義兄上殿はいったいどういう御心算(おつもり)か……黙って見ているような人間じゃあない。寧ろ、状況を逆手に取る人間だ――――揚げ足取りが生き甲斐のような人だからな)

 軽く嘆息する、これだけ聞けば碌でもない人間だ。
 けれども、実際の人間像としては、弱者を切り捨てる冷徹さを得るに至るほどの高潔な覚悟を持つ―――冷淡に見えて、内心には若さと言い換えてもいい熱い物を持っている男だ。

 しかし、彼が如何なる暗躍をしていようが、腹の探り合いに疎い自分が何かをできる訳ではない。
 剣での斬り合いも、政治も大して違いは無いのだが、如何せんまどろっこしくて面倒だ。

 そして―――頭を悩める理由がもう一つあることを思い出したその時だった。


 “コンコンコン”

「入れ」

 恐らく悩みの種であろう存在が到着した合図、短く入室を告げると扉が開かれた。

「失礼します。」

 振り向いた視界に入る黒と黄。
 宮司の意匠を残す斯衛軍服に、夜川を切り取ったような漆黒の髪を流す少女―――篁唯依が其処にいた。

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