トワノクウ
第二十夜 禁断の知恵の実、ひとつ(一)
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声がこれ。地味に傷ついた。
(最初からずっと不機嫌でいらっしゃいますけど、私、何かしちゃったんでしょうか?)
露草からすればよほど態度を許した相手でない限り、これがデフォルト――いわゆる時間経過型のツンデレだということをくうは知らない。
唐突に視界上部が広がった。顔を上げて、露草が帽子を取り上げたのだと気づいた。
「か、かえしてっ、返してくださいっ」
くうが手を伸ばして跳んでも、露草は腕を上げて遠ざけるので帽子に手が届かない。
「んなもん被ってたら顔見えねえだろ。――この目、鵺に奪られたのか?」
「は、はひっ。こっちに来てすぐ、そいで、朽葉さんに助けてもらって」
「ふぅん、犬憑きに」
花色の瞳に射られて四肢が竦む。なまじ遺伝子操作の入った花よりよほど美しい色をしている。
「あんま篠ノ女に似てねえな」
「彼女は母親似なんだよ。髪は鳳の影響で色落ちしているしね」梵天が助け船を出してくれた。「いい加減返してやれ。子供じみた真似をするな」
「へーへー。ほら」
露草は帽子をくうの頭に押し付けた。視界が狭まってやっとくうは安心した。
「篠ノ女の娘っつーからどんだけ生意気な女かと思ったら、ただの童女じゃねえか」
「う……つまんない子でごめんなさい」
「何で謝んだよ」
「くうの気分の問題です」
篠ノ女紺の娘。千歳萌黄の娘。あまつきの人や妖と縁ができる時、必ずくうに付いて回るレッテルだ。紺や萌黄を引き合いに出され、比べられるたびに、くうは己のつまらなさ、至らなさに悩まされる。謝りでもしなければひたすら落ち込むのを防げない。
「冗談。これで親のどちらかに似ていたら救いようがない」
「まあ篠ノ女はともかく――帝天は、なあ」
今聞き捨てならない名称が聴こえた。
「帝天は鴇先生じゃないんですか!?」
今の言い方ではまるで母が、千歳萌黄が帝天であるかのようだ。
「……お前、言ってなかったのか?」
「一度に知識を与えても扱いきれず暴走させるだけ。ただでさえ彼女はあの時点ですでに詰め込み過ぎだったからね」
梵天はのどをとんとんと指した。詰め過ぎ、とは、のどに、という意味か。くうは自分ののどを押さえる。
確かに昨日の時点で、くうは自分の身体でいっぱいいっぱいだった。この上、母親の秘密など知れば、息ができなかっただろう。
「そういうわけだから、篠ノ女と萌黄の昔話はまた今度だ。然るべき時にちゃんと与えてあげるよ」
「はい。梵天さんがそうおっしゃるなら、お任せします」
梵天の判断なら信ずるに値する。くうは笑って軽く頭を下げた。
「これからまた考えることが増えるんでしょうから、梵天さんのよいように計らってください」
「――
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