序章
0話 絶望の産声
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人の方がずっと危ないし、燐ちゃんがそばにいた方が安心できるし………それにね………」
ふと、言葉が詰まり、ヒヨリは「ううん」と何かを訂正して、繋いでいた手を包むようにもう一方の手を添えた。
「………燐ちゃんも、あまり頑張り過ぎちゃだめだよ。私も頑張るから、一緒に生きてここを出よ、ね? だから教えて。燐ちゃんが《べーたてすたー》になって知ったこの世界の事を………!」
きっと今までの人生で、この瞬間ほど己を恥じた時はないと思う。
まるで自分だけ大人になったつもりで、どこまで自惚れが過ぎるのか。
ヒヨリの意思を蔑ろにしようとして、挙句、自分の死さえ美化しようとして、それで現実を受け入れた気になって、情けない。
ヒヨリの方が、ずっと俺より現実に抗っていたではないかとさえ思えてしまう。
――――そうだ、死んだら駄目だ。
生きて抗わなければ、こんな下らない世界で犠牲者に成り下がってなどなるものか………
………気付いたら、堪えていた涙が流れていた。
感情エフェクトが生成する偽物の涙は、それでもヒヨリが融かしてくれた負の感情との決別の証のように、そんな風に思えた。
「………ここから、北西」
「………うん」
不覚にも出てしまった涙声に、友人は頷くだけで追及はしない。
むしろ、今まで以上に力強く手を握って意志の強さを示してくれた。その優しさに感謝しながら、咳払いで声音を整え改めて、目下の方針を伝える。
「恐らく、ベータテスターを含む他のプレイヤーは北西にある《ホルンカ》を目指すだろう。そこで発生するクエスト報酬で序盤では優秀なパラメータの片手剣《アニールブレード》が手に入る」
「じゃあ、私たちも行くの?」
「いや、俺たちは北東に向かう」
「そこに何かあるの?」
「ああ、隠しダンジョンだ。そこではさらに優秀な片手剣と、ヒヨリが装備している種類の武器を落とすモンスターも出現する。ベータテスト中では俺しか見つけてない穴場中の穴場。どれも一つしかない、早い者勝ちのアイテムだ。うまくいけばレベルも格段に上げられる」
「あの………そこは、大変なの………?」
「あれだけ大見得切って尻込みするなよ」
「ごめん………やっぱりちょっとだけ怖くて………」
「ぷふっ………ふはははっ!」
「あっ、笑わないでよ!?」
………こいつが一緒にいてくれて良かった。
「いや、悪い」
これからは、もう少し外を歩くようにしよう。
自分の世界に閉じこもらず、なるべくヒヨリと一緒にいよう。
だから、そのためにも戦おう。この世界で終わるのではなく、現実へ戻るために。
涙を拭って、向き直る
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