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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
序章
0話 絶望の産声
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ぜソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことしたのか、と。私の目的は既に達せられている。この世界を創り出し、観賞するためにのみ、私はソードアート・オンラインを創った。そして今、全ては達成せしめられた………」
「以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」



 言葉を締めくくると、巨大なローブのアバターはノイズと共に崩れ、液状に戻ってウインドウ群の隙間に消えていった。
 直後には何もなかったかのようにウインドウも消え、広場にはプレイヤーだけが取り残された。
 これがただのゲームではなくなったと理解した者は既に姿を消した茅場に怒号を吐き、あるいは抗いがたい現状に為す術もなく嘆き、それらの奔流が誰かの悲鳴が投じられた一石となって波紋のように増幅した。

 ………その声が俺を責めるように聞こえ出して、肺に鉛が入ったような息苦しさが俺を襲った。

『お前の所為で友人が死ぬ』と嘲る声が、
『なぜ友人を死なせるきっかけを作ったのか』と蔑む声が、

 大勢の絶望が溶け合った雑言の中から、そんな幻聴が飛び出しては鼓膜にこびりつく。

 狂ってしまった世界を切り取る視界の端で、黒髪小柄のプレイヤーが相棒であろう赤髪野武士面を引っ張って広場を後にするのが見えた。どこへいこうというのか、なにをしようというのか。それは然して問題にはならなかった。誰かが、この現実に抗っている。進もうとしている。そう思うことが、俺の動く動機(スイッチ)になった。


「……話がある。場所を移そう」


 楽しい遊びだったSAOは、もう跡形もなく崩れ去っていた。
 この世の終わりを具現化したような広場から放心状態のヒヨリの手を引いて、街の出口へ向けて移動する。プレイヤーのほとんどは、幸いまだこの状況に翻弄されて身動きが取れるような状況じゃない。今だからこそ、俺は動かなければならない。話しておかなければいけない。そんな気がした。


「燐、ちゃん………?」
「このまま街を出る」


 端的な言葉だけで、要件を伝える。
 あまり時間もないから移動しながら、あの騒がしい中だとヒヨリも落ち着いて話を聞いてくれなかっただろう。幸い、驚いたような反応を見せてくれた。話が聞ける程度には精神状態が回復しているようだ。


「で、でもっ………もしかしたら死んじゃうんだよ!? それに、私が一緒じゃ………」
「お前はここに残れ」
「………え?」


 追い込まれたあの状況から、ここまで回復したヒヨリの精神力に素直に感謝するものの、突き放すような言葉を言わざるを得ないこの状況は辛いものがある。だがこれはヒヨリを守るためでもあり、俺なりのケジメでもある。



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