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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
序章
0話 絶望の産声
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に酷似しているものの、ローブの下には(かお)がない。
 一度静まり返った広場は、ポツリポツリと声が挙がり始めた。
 GMらしきものの出現により、ログアウト機能の復旧ないしそれに準ずる報告か、イベントの開始の宣言か、静観のみだった運営からのアプローチに各々の反応を見せている。


「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」


 両手を広げ、来訪者を迎え入れるような身振りで赤いローブのアバターは言葉を発した。
 男性の声だ。声に起伏がなく、ローブの下も貌がない為に、声の主の感情を窺い知ることはできない。だが、《私の世界》という言葉が酷く不気味で歪つに聞こえた。


「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」


――――茅場晶彦。SAOの開発ディレクター。

 完全な仮想世界の創造を目指し、そして百層からなる浮遊城《アインクラッド》という異世界を創り上げた天才だ。
 開発者本人の登場ということも相俟って「これがイベントだろう」という声が数を増すも、発した言葉は脅迫かと聞き紛うほどに冷酷さを孕んでいる。これがただのイベントだとは思えない。


「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。……繰り返す。不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」


 耳を疑った。ログアウトボタンがない、ログアウトできないこの状況が、SAOの本来の姿であるという言葉に……
 SAOのハードである《ナーヴギア》は頭部全体を覆うヘッドギア型をしている。フルダイブとは、知覚情報を脳に、運動の命令伝達を延髄に、埋め込まれた信号素子のマイクロウェーブによる精密なリンクを行い、脳とナーヴギアとで情報のやりとりをする状態をいう。その結果、本来は筋肉へ伝達されるべき命令はすべてナーヴギアへと送り込まれ、身体は完全に動かない状態となっている。

――――つまり………


「諸君は自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除も在り得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」


 生命活動を………停止させる………?
 そんなことは流石に………いや………


「燐ちゃん、嘘だよね………? みんな嘘なんだよね?」


 状況を整理するうちに脳内に広がった筋書きが現実味を帯びる中、ヒヨリの声で意識は一気に現実へと戻る。とはいえ、目の前にあるのは仮想空間とアバターの姿を借りた幼馴染なのだが、声色で伝わる。
 ここまで怯えるヒヨリを見たのは、多分これが初めてだ。

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