第六章
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「阪神の日本一観たいよ」
「シリーズ、勝てたら」
「勝つさ、絶対に」
寿は満面の笑みを浮かべて言い切った。
「絶対にさ」
「言い切ったわね」
「うん、二十九年ぶりに」
「まあ少なくとも虎刈りにしなくて済んだわね」
「パーティーだよ、パーティー」
虎刈りとは違ってだ、こちらだというのだ。
「さあ、スパゲティは大蒜入れてオリーブオイルをたっぷり使ったミートソースにしてハンバーガーと唐揚げとか買って」
「それでビールね」
「楽しみだよ、けれど」
「けれど?」
「胴上げしないんだ」
マウンドの阪神ナインを観たままだ、寿は意外といった顔になった。
「何でまた」
「あっ、そういえば」
言われてだ、千佳も気付いた。
「しないわね」
「折角シリーズ優勝決まったのに」
「ううん、まさかシリーズで優勝したら?」
千佳は首を傾げさせつつ兄にこう言った。
「そう思ってかしら」
「だからか」
「じゃあ日本一になったら」
「その時に胴上げか」
「そうかもね」
「じゃあその時に観ようか」
寿はあらためてこう言った。
「胴上げを」
「そうするのね」
「さて、今度はシリーズか」
寿は笑って言った。
「楽しみだな」
「まあ。見守ってはあげるわ」
「そこでもそう言うんだな」
「だって私広島ファンだから」
あくまでこう返す千佳だった、何はともあれ寿は愛する阪神がシリーズ出場を決めて大喜びであった。だが。
シリーズが終わった瞬間彼はテレビの前で固まっていた、そのうえで一言呟いたのだった。
「何、今のは」
「ええと、守備妨害?」
テレビ観戦に付き合っていた千佳も兄の横で呆然となっている。
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