第百八十六話 国崩しその二
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「ここは」
「うって出ますか」
「いや、それはな」
「そこまではな」
やはり戦意が極限まで落ちている、僧達に自分からという気概はなかった。あったが最早消え失せてしまっている。
「せずともよい」
「特にな」
「では」
「ここは」
「届かぬ」
こう言うのだった。
「鉄砲でも届かぬからな、弓矢もな」
「だから大筒もですか」
「そうじゃ、届かぬ」
こうだ、やつれた顔と疲れきった目で言うのだった。
「気にするでない、幾ら撃っても届かぬ」
「わかりました、では」
「うむ、飯でも食え」
やはりこのこともだ、僧侶は虚ろに言うばかりだった。
「ここに篭っておればな」
「どうとでもありませぬか」
「毛利が敗れ幕府も滅んだというがな」
これでかなり戦意が落ちていることは確かだ、それで虚ろになっているのだ。もう戦は負けだと思っていることは確かだ。
しかしだ、石山御坊に入っている限りはというのだ。
「敵はここには来れぬ」
「大筒も気にせずに」
「食え、飯はたんとあるわ」
こう言って門徒達に飯を食わせる、彼等の士気はどうにもならないまでに落ちていた。
雑賀はその状況を見て眉を曇らせていた、そしてそのことを顕如に言うのだった。
「法主様、どうやら幕府は」
「聞いておる」
これが顕如の返答だった。
「滅んだというのじゃな」
「挙兵しましたが」
「所詮最早幕府ではだ」
「織田家にはですか」
「勝てなかったわ」
幕府には最早それだけの力はとてもないからだ、顕如はそのことを手の中にある様にわかっていたのである。
「織田信長がすぐに都に向かいじゃな」
「ことを収めたそうです」
「そうじゃな。それでじゃな」
「幕府は帝から民を困らす者とされ」
「そしてじゃな」
「織田信長その大義名分を盾に幕府を潰したとのこと」
こう顕如に話す。
「そして幕府は滅び」
「織田信長はここに戻って来たな」
「そのうえで」
「いよいよ石山攻めとしてくるか」
「どうされますか」
顕如に問うた、このことを。
「籠り続けますか、このまま」
「いや、それはな」
顕如は沈痛な顔で雑賀に答えた。
「最早な」
「戦えぬと」
「最早門徒達の士気は極限まで落ちておる」
それでだというのだ。
「これ以上戦ってもな」
「戦にならぬからですか」
「そうじゃ、だからな」
「降りますか」
「相手は織田信長、守りきれぬ」
顕如はこう見ていた。
「これだけの堅固な寺でもな」
「陥としにかかってきますか」
「必ずな、だから門徒達に害が及ぶ前にじゃ」
その前にというのだ。
「降るとしよう」
「そうされますか」
「門徒達の無事が認められればよい」
それでというのだ。
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