第一章
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あるのだ。彼は休日にはよく街道を走っている。その為その筋ではかなり名前を知られた男でもあるのだ。その速さと度胸で。
「だから余計に」
「わかってるさ。そりゃ親父さんやお袋さんのことはな」
走輔もここでまた俯くのだった。
「わかってるけれどよ」
「それでもバイクはなのね」
「どうしてもな。わかってくれよ」
「けれど本当によ」
優子の言葉はしつこくさえあった。どうしても走輔のことが心配だったのだ。
「気をつけてよね」
「わかったさ。本当にな」
こんなやり取りをいつも続けていた。しかし走輔は優子のこの言葉を疎ましいとは思っていても彼女は好きだった。心優しく誰にでも公平な彼女の心のよさを知っていたからだ。
そして彼女も走輔の一本気で嘘のない性格が好きだった。二人はいつも一緒にいたし優子はバイクにこそ乗らなかったが彼と一緒にいつもいたのだった。
そんなある日のこと。優子は学校から帰っていた。そこでふと一人の男に呼び止められたのだ。
「もし」
「はい?」
顔を向ければそこにいたのは青いスーツの男だった。白い、裏地が赤のコートをその上に羽織っている。スーツの襟から見えるカッターは白でネクタイは赤だ。髪は黒くそれで顔の左半分を隠している。涼しげでかつ端整な顔をした痩せ身で長身の男だった。
「貴女のことですが」
「私ですか?」
「まず私のことですが」
次に男は自分のことを名乗ってきた。
「占い師でして」
「占い師の人ですか」
「はい。速水といいます」
こう名乗ってきたのだった。
「速水丈太郎といいます」
「速水さんですか」
「はい。宜しければ名前を覚えていて下さい」
優子にこうも告げてきた。
「宜しいでしょうか」
「はい、速水さんですね」
優子は彼の言葉に応えて頷く。とりあえずは、であった。
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