第五章
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クレープの一つを微笑んで受け取るのも見た。ここまで見て全てわかったのだった。
「そうなのね」
寂しい微笑みを浮かべて一人呟く瞳だった。
「私だけが。勝手に思っていたことなのね」
このことを思うことになった。そして目を閉じて首を小さく幾度か横に振って。その場を後にしたのであった。
それから暫くして。夏希が店に誰もいない時にだ。こう彼女に言ってきたのである。
「あのね、私ね」
「何かあったの?」
「彼氏できたのよ」
声がにこりとしていた。
「彼氏がね。できたのよ」
「よかったじゃない」
わかっていてそれを隠して答える瞳だった。二人はカウンターで横に並んでいる。お互いの顔を見ずに硝子のコップをそれぞれ拭きながら話をしている。
「あんたもやっとね」
「うん。年下だけれどね」
夏希の声にはのろけまで入っていた。
「できたのよ」
「それで相手は?」
「八誠君よ」
その名前を聞いて心が動かなかったと言えば嘘になる。しかしそれを隠してそのうえで娘に対して一言静かに告げたのであった。
「おめでとう」
「ありがとう」
娘の声はやはり笑っていた。
「私もやっとできたのね」
「そうね。何もかもこれからよ」
「ええ」
母の言葉に満面の笑顔で頷く夏希だった。
「わかったわ、それは」
「そういうことでね」
「それでだけれど」
娘はさらに言ってきた。
「その相手だけれどね」
「誰かしら」
「あっ、来たわ」
言っている側からだった。彼が店に来た。瞳はその彼を笑顔で迎えた。娘の恋人として。
同じ相手を 完
2009・11・3
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