俺と言う名のプロローグ
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。
やっとの思いで見つけたのは家があった場所。
そう過去形だ。
脱走から3週間が経っていた。
人に見つからず、ごみ捨て場の食べられるものを漁って食いつなぎ、
やっとの思いで到着したのは空き地であった。
絶望。
そんな感情が頭を埋めつくし、その場に倒れ、意識を失った。
目が覚める。
暖かい。ここが天国なのかな…と考えてしまうのは救いを求めているからなのか。
匂いがする。懐かしく、心地のよい、そして何より食欲を掻き立てる。そんな匂い。
嫌に重く感じる身体を起こし、出来る限り慎重に辺りを調べる。
そして見つけたのだ。一人の老婆を。
俺は理解する。
俺は助けられたのだと。
そして不意に声を掛けられた。
『逃げるんならこれを食べてから行きな』
逃走を制止するわけではなく、寧ろ肯定するような言葉。
ぶっきらぼうでいて、何処か優しさを感じたその言葉。
「何でたすけた…」
ご飯、味噌汁、焼き魚と、在り来たりでいて懐かしさを感じる食卓。
俺は静かに、そして警戒を込めて聞いてみた。
「そんな物、寝覚めが悪いからさね」
寝覚めとは何だろう?
この時こそ聞きはしなかったものの、今なら分かる。
結構年のいった婆さんのツンデレと言う物だったのだろう。
「それで、出ていくのかい?」
二人しかいない空間ではお互いが喋れば嫌に響く。
俺はその言葉を頭の中でリピートして、相手の、婆さんの目を見た。
その目には一切の曇がなく、美しく、綺麗だった。
だから俺は言ってやった。
何の思惑があって俺を助けたのかは知らないが、
『子供特有の覚えたての言葉は意味がわからなくても使う』を活用し、
「お婆ちゃんがこの家から居なくなったら出てってやるよ。
寝覚め悪いからな」
ーーーーと。
すると婆さんは一瞬驚いた後、ニヤリと笑う。
「働かざる者食うべからず。アタシを楽にしてみなっ」
そう言った婆さんはとても生き生きしていた。
…そう。今でも鮮明に思い出せる。
出会いがあれば別れもある。
俺と児童養護施設の様に短時間で終わる縁もあれば、
俺と婆さんの8年に渡る縁もある。
日に日に窶れ、寝込む回数が増えていく婆さんは最後、
こう言って別れを告げた。
「お前の名前は九十九…大切な物に命が宿るように…
アタシの大切になってくれたお前にこの名前を……あげる…よ」
俺は、13歳に成るまでで初めての涙を流した。
8年。感じた時間は一瞬だった。
光陰矢のごとし。
長いだろうと感じる時間さえ、経ってみれば早いものだと、知識の疎ましさを実感した。
今まで『お前』だの『アンタ』だの呼ばれ続け、最後には名前を送って逝っ
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