煙
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な寝顔を見ながら思う。吸血衝動と言っても、それはこいつの本能だ。人間の俺達が食事を必要とするように、吸血だってないよりはある方がRの身体にはいいはずだと思う。特にRと親しい人間は『組織』に俺以外いないから、吸血を頼むとすれば俺しかいない。その俺に頼まないのは、それなりの理由があるかもしれない。
――だが。
俺はいつごろからか、Rになら吸われてもいいと思ってしまった。叶うなら今ここで、本能に負けたRに噛み付かれてしまいたい。
そんなことは決して口に出さずに、俺は新しい煙草を箱から出してまた一から吸い始める。
しばらくそうしていると。
「N……俺は……」
と、Rの唇から寝言が漏れた。
俺はその先が続くものかと思ってRを見つめたが、それっきりだった。
* * * *
翌日、二十三時四十九分、『組織』所有、窓のないビル、最上階ラウンジにて。
NやRと同じ黒スーツを着た男――コードネームJがスマートフォンを片手に電話をしていた。ただ、ネクタイの色が違う。こちらは青だ。
『――それでRは目覚めなかった、と?』
電話の先から不思議な声が流れる。
女のような男のような。
少女のような少年のような。
若者のような老人のような。
性別もおおまかな年齢も分からない声に、男は丁寧に答える。
「ええ、Nは促進したようですがRが拒否したようです――A様」
『なるほど。二人の関係からしてそろそろ、と思っているんだがなぁ……。しかし、まずいことになったな』
Jは電話の声――コードネー厶Aに首をかしげた。
「まずいこと、といいますと?」
『Rは吸血鬼としての自覚を持ってから、というより生まれてから一度も吸血をしていないのだよ。赤ん坊のころ『組織』に拾われたのだからこれは間違いないことだ。つまり末裔とはいえ、十九年も血を飲んでいない。故に、Rの身体はもう長くはないのだ』
「ならば、血を飲ませればいい話ではないのですか?」
Jの案に、Aはこう言った。
『Rの場合二十年間、一度も血を吸わなければ二十年が経ったその時に死ぬ。そういう身体なのだよ。どういう仕組みかは知らんが。そして、明日でRは二十歳だ。《主人》様からお借りした書物にあったことだが、死の前日は、もう普通の血では寿命は伸びないらしいのだ』
「――普通の血ではない血、とは?」
Jは、ラウンジをゆっくりと歩き回りながら喋る。
『どうやら、特殊な血――永遠(フォー)の(エバー)血(ブラッド)ではないといけないらしい。そのまんまで笑えるな』
「わたくしもそう思います」
Jはラウンジの中央で足を止めた。
『重要なのはここからだ。その血を持つのがほかならぬNなのだよ。まったく、どうしてこうも偶然が重なるのか……』
「ですがA様。RはNを拒否しておりま
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