第1話 降り立つ、客人
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す〜」
高度を高くとれる輸送任務は、下方からの携行火器を警戒しなくていい為か、岡田は普段よりも饒舌だ。
仲嶋は間の抜けた部下の様子を微笑ましく思いながら、ダグラム空港へと閃電を急がせた。
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「仲嶋少尉、機体整備の方はどうします?」
「ああ、ここでは良いよ。すぐ出発する気だし、オイルの規格も違うし、軍用機を民間に見せるのはね。」
岡田が空港の格納庫から出張ってきた整備サービスを断っているのをコクピットから見下ろしながら、仲嶋はため息をついた。ここの整備は高くつくうえに、場合によってはパーツの一つや二つパクっていかれるかもしれない。仲嶋は民族主義者ではないが、それでもこの紛争地帯の民度を信用する程にはお人好しでも無かった。前にダグラム空港に来た時から、整備の顔ぶれも結構変わっているようだ。若い整備士が多い。ベテランの腕のいい整備士は、またどうせ待遇の良い地方軍閥にでも移籍したのだろう。首都の空港がこの体たらくという辺り、アザディスタンの悲しい現状が浮き彫りになっている。
「じゃ、お客さん呼んできますね。すぐ出発するって事で、管制の方に連絡お願いできます?」
岡田に言われた通り、仲嶋は後部に座った通信士に言いつけて航空管制への連絡をさせた。来てすぐ帰るなんて、まるで泥棒みたいだな……と仲嶋はぼんやりと思った。しかし、それは間違ってないのだろう。この国は自分達の国ではない。日本人の居場所がある訳ではないのだ。
今回乗せていく客人が、岡田に連れられてこちらに歩いてくるのが見えた。仲嶋は違和感を感じた。いや、仲嶋が勝手に今回の客のイメージを自分の中で作り上げていて、そのイメージと食い違っていただけなのだから、違和感と言うのはおかしいだろう。しかし、驚いたのは確かだ。長身の岡田に連れられて歩くその身体は小さく、頭にはヘジャブを被っていたのだから。
形良く尖った顎、抜けるような鼻筋、薄い唇。岡田の希望通り、その顔立ちは立派な美人だった。しかし、仲嶋はそこには目が向かなかった。
目つき。その若い女の目つきは、実に鋭く、そして感情がなく、乾燥していた。
遠目で目が合っただけの仲嶋の背筋が、ゾクゾクと震えた。
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