乱れ混じる想いに
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のです」
別段、風は考え方を咎めようとしない。見た目に惑わされがちだが、軍師としての彼女は曹操軍で一番冷たい。人の心を誘導するのが得意なのは、彼女が他人を壁越しに観察できるからだ。
感情を差し込まない術を心得ている彼女は、朔夜と稟の中間に居る、と言ってもいい。
今は朔夜も軍師として此処にいる。ならば兵の掌握にヒビを入れる発言は控えるべき……風の言はそういった言い分。
ハッとして辺りを見回した朔夜は、誰にも聞かれていなかった事にほっと安堵を一息。
「……ごめんなさい」
「風は朔夜ちゃんの先輩ですからねー」
じ、と稟を見るエメラルドの瞳は極寒の冷たさ。朔夜に示すと同時に、風は稟の優しさを咎めている。
ありがたい、と感じて微笑み、コクリと稟は頷いた。そうして、黒をちらりと見やり、思考を切り替えた。
――華琳様が事前準備し、秋斗殿と真桜が作り上げたこの砦。そして敵の攻城兵器を予想しての我ら軍師の策。敵にぶつける不可測すら春蘭や霞、凪達で準備済み。官渡に攻め入った時点で袁家はもう、逃げられない。
ゾクゾクと快感が背筋を走る。まだ始まっても居ないのに、戦に対して稟は歓喜を覚えた。
この戦は一つ一つと策を張った盤上の遊戯。一手打つ毎に命を対価として払う、高価で残酷な将棋のようなナニカ。
醜いと思うが、稟の内に巣食うケモノは極上の餌を喰らっていた。武人に欲があるように、軍師にも度し難い欲望が確かにあるのだ。
風も朔夜も、そういったケモノを身の内に飼っているのは知っている。彼女らにとって、効率を優先する華琳と彼の存在は、何より得難い主と言っていい。
ふと、稟は彼の場合どうなのかと心配になった。
自分はこの欲を理解しているから割り切れる。しかし普通の男に思える彼ならば……
思考を回す内、ビシリ、と空気が張りつめた。彼が急ぎ、城壁の上から身を乗り出しただけで。
主要人物や壁周りの兵達は彼に倣って敵を見やった。
「……やっぱりそうくるか、新しい!」
ゴロゴロと押し迫ってくるその兵器を見て、彼が楽しそうに声を上げた。
皆、ソレが何か理解出来た。誰にでも分かるカタチで、誰かが思い浮かんでもいいはずのモノ。そして……彼が攻城戦に用いられるかもしれないと示唆していた兵器。
「クク、ここはヨーロッパじゃねぇんだけどな」
彼が発した不思議な地名に首を傾げるモノ多数。知っているのは、彼に外の世界の事を聞いてみたいと願い、知識を吸い上げている朔夜だけ。
ただ、他の皆もその兵器の名前は聞いていた。彼がいつか使おうと主要人物だけに教えていたから。
「“ばりすた”……やんな?」
真桜が遠目に見える兵器をどうにか見定めようと目を凝らしながら口に出し、秋斗が頷く。
袁家
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