乱れ混じる想いに
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準備は万端である。後は敵をじっくりと待つだけ。
満足だ、というように彼はにやりと笑い返した。
「クク、あそこまで出来たのはお前さんの螺旋の力のおかげだわな」
「ふっふー、ウチご自慢の螺旋、舐めとったらあかんで?」
「ああ、ああ、そうだろう。そのまま天を衝いちまえ」
「くっくっ、いつか兄やんが言うとった“ぎがどりる”作ったんねん」
「あははっ! 楽しみにしとく。その時の口上は間違えるなよ?」
戦前の緩い空気は兵達に安息を齎すモノ。初めての兵器運用で失敗は許されないが、工作の総まとめである二人が落ち着いているなら、何も問題は無いのだと緊張感が和らいでいた。
二人だけに分かる話で、クスクスと笑い合う秋斗と真桜の様子に、風と稟の側に居る朔夜がむすっとむくれた。
「戦前なのに……」
「秋斗殿は強がりで意地っ張りですから」
「いいんじゃないですかねー。これから目の前で人が死ぬんですから……」
――お兄さんが黒麒麟を見せたいなら、あのくらい落ち着いてる様子を示すべきなのですよ。
風は先を続けず。
秋斗の様子は怯えを隠すためだろうと判断した二人。朔夜の機嫌はそれでも直らない。彼女も人が目の前で殺されるのを見るのは初めてになるのだが、余り恐怖を感じてはいなかった。
「秋兄様は、そんなに怖いのでしょうか……」
「朔夜は怖くない、と?」
「……血は見ました。怪我人は見ました。人が死ぬのも見ました。殺される、所だけは見てません。誰かが殺す、病や傷で死ぬ……それらに何か、違いがあるのですか?」
結果は変わらないというのに……朔夜はそう言いたい。
続けられるであろう言葉を予想して、稟は眉を寄せる。風は……のんびりと目を瞑っただけ。
――この子は軍師として完成され過ぎている。人の命を駒としか見ない、否、見れない。本来は……私達はこうあるべきなのでしょう。
出来る訳が無いが、とは稟も言わない。
如何に冷徹に策を出そうとも、稟は人の命を軽くは見れない。躊躇いは持たないが、悲哀込み上げる心がある。人的損害を減らす策を優先させる傾向があると自覚してもいる。
胸が痛むのだ。割り切ってはいるのだが生来持つ優しさ故に……こればかりは性分なのでどうしようもない。
優しい軍師特有のよくある悩みだが、稟だけは少し状況が違う。
彼女は……経験の浅い状態で黒麒麟の身体を扱ってしまった。命を散らす姿がトラウマとして居座っている。だからこそ、余計に悩む。軍師としての欲望も宿していてすら、である。
「こらー」
「あうっ」
稟が難しい顔で悩んでいる間に、ぺしり、と風が朔夜の頭を叩いた。
怒ってますよ、と眉を寄せ……ジト目の奥は鋭く光っていた。
「思ってても素直に口に出すモノは軍師失格な
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