第二十八話 横須賀の思い出その十三
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「こっちの用意はいいぜ」
「それじゃあだね」
「ああ、出て来いよ」
まだ姿を見せない相手への言葉だ。
「それではじめようぜ」
「わかったよ、じゃあね」
薊の言葉に応えて出て来た怪人はというと。
ザリガニと人の間の子だった、左手は人間のものだが右手は鋏になっている、そのザリガニの鋏を見てだった。
薊は身構えたままだ、こう言った。
「その鋏で挟まれたらな」
「うん、首とかはね」
智和も薊の後ろから言って来た。
「あっという間だよ」
「ちょん切られるな」
「そうだよ、この鋏でね」
怪人自身もだ、その赤い鋏を得意そうにジャキジャキと鳴らしながら言うのだった。
「君の首もね」
「切るっていうんだな」
「そうさせてもらうよ」
「言うねえ、けれどな」
「けれど?」
「切られなかったらいいんだよ」
こう返す薊だった。
「簡単な理屈だよ」
「面白いこと言うね、君も」
「ははは、そうかな」
「とてもね、じゃあね」
「切るか切られるか、だな」
「切られるよ、君は」
笑って返す怪人だった。
「僕にね」
「じゃあ今からそれをな」
「確かめようね」
怪人は若い男の声で明るく言ってだった、そのうえで。
間合いを少しずつ詰めて来た、その怪人を見ながらだった。智和は薊に対して言った。
「ザリガニだからね」
「蟹とかと一緒だな」
「うん、甲殻類だから」
その力を持つ怪人だからだというのだ。
「防御力は高いよ」
「鎧着ている様なものだからな」
「そう、そのことはわかっておいてね」
「わかってるさ、こいつは硬いよ」
薊もわかっていることだった、このことは。
「それも相当にな」
「そのことをわかっておいてね」
「そのうえで勝つな」
「勝ってそして」
そのうえで、とも言う智和だった。
「もうすぐ夏休みだから」
「夏を楽しめっていうんだな」
「旅行に行くんだよね、皆で」
智和は微笑んでだ、薊にこうも言って来た。
「そうだね」
「そうだよ、先輩は無理かな」
「僕は僕で色々やることがあるんだ」
「そうなんだな」
「それに女の子だけの旅行に男一人行くのもね」
「だからか」
「君達だけで行くといいよ」
こう薊に言うのだった、そのやり取りの間に薊も構えを取ったままで間合いを詰めていた。そして間合いを見てそうしてだった。
攻撃を仕掛けた、その七節棍を。
右手だけで持って前に突き出した、すると棒が伸びて。
怪人の腹を狙った、怪人の腹は他の部分よりも薄い白い甲殻だ。だがその一撃を。
怪人は横に素早く動いてかわした、そのうえで薊に言うのだった。
「残念だったね」
「素早さもあるんだな」
「そうだよ、僕はただ硬いだけじゃないんだ」
「素早さもあるか」
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