Episode32:アイス・ピラーズ・ブレイク
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九校戦五日目。新人戦二日目の朝。隼人は予定よりも早く女子のアイス・ピラーズ・ブレイク会場の櫓に隣接した控え室を訪れていた。隼人は男子と女子の両方を合わせて午前中最後、大トリの出番だが、朝早くに来た甲斐があったらしい。
「エイミィ、眠れてないんでしょ?」
「うぐっ、わ、わかっちゃう?」
今この場には呆れ顔をする隼人とバツの悪そうに顔を逸らすエイミィしかいない。後から達也や深雪、そして雫も来るだろうが。
「そりゃそれなりに付き合いが長いんだから分かるよ……まったく」
どうやらエイミィは昨夜眠れなかったようで、普段通りを装っているが隼人にしては万全な状態ではないことは一目瞭然だった。
溜息をつきながら、ベンチに座る。その行動に首を傾げているエイミィに、隼人は自身の太腿を二回叩いた。
「ホラ、おいでエイミィ」
「え、隼人?」
隼人の意図が分からず困惑した声を漏らすエイミィに、隼人はじれったくなったのか彼女を強引に座らせて、頭を自身の太腿に乗せた。
所謂、膝枕というやつだ。
「は、はは隼人!?」
「こら暴れるな。まだエイミィの出番まで時間あるし、少しくらい仮眠を取ろう。と言うか取れ」
有無を言わさず押さえ付けられて、エイミィは抵抗するのを諦めた。そもそも、その抵抗は恥ずかしさから来るもので、好きな人に膝枕してもらっているという幸福が羞恥に勝った結果だった。
大人しくなったエイミィに小さく笑みを漏らして、隼人は彼女のルビーのように赤い髪を撫で始めた。
その気持ち良さに、瞼が重くなるのを感じた。心地の良い微睡みに沈んでいくエイミィの耳に、幼い頃何回も聞いた旋律が聞こえてきた。
それは隼人が執事としてエイミィの傍に付いた、ほんの二週間程の間の記憶。あの事件以来、夜に眠ることができなかったエイミィに、隼人はいつもこの『子守唄』を歌って聞かせていた。
隼人が傍にいて、この子守唄が聞こえる時のみ、心に恐怖を刻み付けられた少女はゆっくりと眠りにつくことができたという。
「世話が焼けるお嬢様だなぁ」
穏やかな寝息を立て始めたエイミィに笑みを浮かべて、隼人は彼女の髪を撫でるのを止めた。
エイミィの出番まであと二時間程。それよりも前にエンジニアである達也と打ち合わせがあるから、寝れるのはあと一時間くらい。それでも、一睡もしないよりはマシだろう。後は、この光景を誰かに見られて騒がれないように祈るばかりである。
「はぁ…暇だ」
寝かせたのは良いものの、暇を潰すものを用意しておらず、溜息をつく隼人であった。
☆★☆★
「……これは」
「あらあら」
担当するエイミィの試合に合わせ、十分な余裕を持って櫓を訪れた達也と深雪は、目の前の光景を見て驚きの表情を浮
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