第三章
[8]前話
「そして必死だった」
「意地です」
オルフェウスはいぶかしむ仲間達に答えた。
「意地がありましたので」
「意地か」
「意地の為なのか」
「私もそうでしたが彼女達もです」
そのセイレーン達もだというのだ。
「自分達の歌に絶対の自信がありましたので」
「その為か」
「必死になってか」
「私と戦ったのです」
オルフェウス、彼というのだ。
「命を駆けて」
「そして君もまたか」
「そうしたのだな」
「命を賭けていました」
実際にそうだと答えるオルフェウスだった。
「正直あと少しで」
「倒れていたのか君か」
「そうなっていたか」
「危ういところでした、しかし」
それでもだというのだ。
「私は勝ちました」
「よくやってくれた」
「お陰で助かった」
英雄達はオルフェウスに言った。
「本当にな」
「危機を乗り越えられた」
「君のお陰で」
「その通りだ、今回は君の功績だ」
イアソンも彼に言うのだった、再び。
「その命懸けの戦いでな、しかし」
「しかし、ですね」
「セイレーン達は怪物だがそれでもな」
それでもだというのだ。
「意地があるのだな」
「そうです、彼女達にも心がありますから」
「それでだな」
「そして誇りがありますから」
それ故にというのだ。
「あそこまで、です」
「必死に戦ったのだな」
「そうしました、歌に絶対の自信があるからこそ」
「君に戦いを挑みか」
「はい、誇りと意地を賭けてです」
「君と戦ったのだな」
「そうでした」
オルフェウスはこうイアソンに答えた、そしてだった。
その後の話でだ、彼はこうも言った。
「彼等にも心があるのです」
「怪物にもか」
イアソンはオルフェウスの言葉に深く頷くことになった、それはテーセウスも他の英雄達もだ。そのうえでセイレーン達がいた島の方を見た、もう島は見えなくなっていてだ。そこには海が深い青をたたえて波を見せていた。
セイレーンの意地 完
2014・8・23
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