第三章
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第三章
「そのこと。覚えている?」
「勿論よ」
微笑みをそのままに翠に答えた。
「お互いの裾をね。持つのね」
「そう、ヴェールのね」
十五年前の約束を今も覚えているのだった。
「覚えてるわ。勿論ね」
「そうなの」
「そうよ。けれどね」
しかし翠は急に残念そうな笑みを浮かべるのだった。
「今の私はね。できないわね」
「どうして?」
「もう。おばさんだから」
そう言ってまた残念そうな笑みを浮かべた。
「だから無理なのよ。もうね」
「そうなの」
「そうよ。けれどね」
笑みは優しく満ち足りたようなものになった。
「代わりにね」
「ええ。代わりに」
「葵」
人の名前を呼んだ。
「こっちよ。ちょっと来て」
「何、お母さん」
それに応えて小さな女の子がやって来た。淡いピンクのドレスを着たその女の子の顔は見ればあの時の紫とそっくりであった。
「ほら、紫お姉ちゃん結婚するのよ」
「お姉ちゃん、おめでとう」
「有り難う」
満面の笑顔で自分と本当にそっくりの葵に対して礼を述べる。
「結婚するのね。とても奇麗よ」
「そうかしら」
「それでね。紫ちゃん」
葵の横で翠が紫に声をかけてきた。
「一つ御願いがあるんだけれど」
「何?」
「もう私は裾を持つことはできないけれど」
また言葉が少し申し訳なさそうになった。
「けれどね。その代わりに」
「この娘が持ってくれるのね」
「ええ。それは駄目かしら」
「いいわ」
紫は翠のその申し出を微笑みで受けた。
「お姉ちゃんが最初で」
「ええ」
「次が私」
その微笑みのまま言葉を続けていく。
「そして今度は葵ちゃん。それが自然よね」
「私のを紫ちゃんが持ってそれで紫ちゃんのは」
「葵ちゃんがなのね」
「そういうことよ。それじゃあ」
「ええ。葵ちゃん」
翠と話を決めてから紫は葵に顔を向けて声をかけた。
「私のヴェールの裾、持ってくれるかしら」
「うんっ」
葵は子供らしい無邪気な態度で紫に対して頷いてきた。
「持たせて。絶対」
「わかったわ。それじゃあ」
「それでね。私が結婚する時だけれど」
「どうしたの?」
「紫お姉ちゃんにも子供ができるわよね」
葵はこのことを紫に対して話すのだった。
「それは。そうよね」
「そうね。多分ね」
これは紫にとっては確信の持てない未来だった。しかし葵はこのことを確信していた。それが子供故の無邪気さから来るものかどうかまではわからないが。
「そうなるかも」
「じゃあその時はね。紫お姉ちゃんの子供が葵のヴェールを持ってね」
「順番なのね」
「そう、順番」
葵はまた無邪気に語る。
「順番だからね」
「わかったわ。じゃあその時にね」
「それじゃあ紫ち
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