暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第二部 文化祭
第56話 結末
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ん目頭が熱くなることを感じる。

「ありがとう、キリト……」

 そう言ったまりあの声は微かに濡れていた。茶色い目から、はらりと、甘い感情が流れ出していった。
 和人は戸惑いながらも微笑み、首肯してくれた。そして、まりあの元へと近づいてくる。ついに和人は、まりあのすぐ傍まで到達してきた。

「な、なんですか……」

 警戒するような声音で言うと、和人はニッと笑みを浮かべた。

「いってらっしゃい。頑張れよ」

「えっ? 行くって、どこに……頑張るって、どこで……?」

 そのときふいに、和人がまりあの背中をどんっと押した。その勢いで、まりあは舞台へと飛び出してしまう。
 それまで黙っていた明日奈が、慌てて言った。

「な、何してるのよキリトくん! まりちゃん、早く戻っておいで」

「は、はい……」

「まりあ」

 名前を呼んだのは和人だ。まりあは反射的に、舞台袖へと戻ろうとする足を止めた。
 観客席がざわつきの色を帯び始める。

「おまえ、音楽が好きなんだろ? まりあの尊敬する、有名な先生が観にきてるんだろ? なら、俺よりもまりあが舞台に上がるべきだ」

 その言葉に、まりあははっとした。和人の言っていた"いいこと"というのは、きっとこのことだったのだ。
 まりあは嬉しさに再び目を細めたが、最大の難点を思い出し、俯く。

「で、でも私、歌は苦手だし……そもそもBGMすらないんじゃあ……」

「音楽は歌だけじゃないだろ」

「え……?」

「そこから先は自分で考えるんだ。舞台に何か、楽器があるだろうけど」

 舞台を振り向くと、一台のグランドピアノがあった。黒い表面に少しだけ傷が入っていて、使い込まれているのだということがわかる。まりあは半ば吸い寄せられるように、その大きな楽器へと足を進めた。
 鍵盤は少し黄ばんでいるが、試しに押してみると、綺麗な音を奏でた。よく調律されている。
 もう止まらなかった。まりあはピアノとセットである椅子に腰を落とすと、思うままに、やりたいがままに演奏を始めた。

 ──即興曲。
 曲にも、物語と同じように、起承転結がある。曲も1つの物語文であると言えるだろう。

 即興で作りながら弾き続ける曲に込めたのは、和人への想い。
 和人に出会えた喜びを表した、明るくどこか切ない《起》。
 次いで、和人への想いに気づいてしまったときの驚きと、それにより次第に速くなる鼓動を表現した、はねるような《承》
 彼に恋人ができたことを知ったときの哀しみ。その恋人が自分にはないものばかりを持った学園一の美人だとわかったときの、更なる絶望感。それが自分の大切な友達であるというもどかしさ。愛情の渦巻き。儚い恋を描いたのが、?転?。
 そして──?結?。
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