【吸血鬼はじめました】
いつからだろうか、「人」の血を凄く欲するようになったのは。
人の首筋を見れば体中の血が沸騰したように熱くなってしまう。
そんな秘密を言える訳が無いので、今日も今日とてただひたすら上司の手伝いをする。
「伏見さん、これ終わりました」
書類の山を提出すれば帰って良いと言われ返事だけするも、帰る気はさらさらなく俺はそこに鎮座している。
書類を見ている伏見さんの目が少し俺の方に向けば胸が高鳴ってどうにもならなくなる。
――俺が「吸血鬼」何て事は言えない。
正確には吸血鬼と人間のハーフと言うのが正しいがこの際あまり気にしなくていい。
このことは誰にも言っていないので、俺が吸血鬼だというのは俺しか知らない。
以前吠舞羅のアンナに気付かれたが黙ってて欲しいと言ったのでバレる心配はいらないだろう。
**
オフィスに2人きり、血を吸うのには絶好のチャンスだが、此処で俺が伏見さんの血を吸えば確実に無事では居られないと思う。
それに伏見さんの血を吸って貧血を起されて倒れられると困るのは俺達なので、血を吸うことは出来ないもどかしさがある。
無論、伏見さんに正体を言わなければいけないので血を吸う気はない。
「……六条道」
名前を呼ばれたので、振り返ってみると伏見さんは俺の方に向いていて何かを言いたげにそこに居た。
何を言うのだろうと思いながら黙っていると、伏見さんは小さくけど確実に口を動かした。
「お前……人間か?」
普段人間同士の会話では聞かない言葉だろう。
俺だって人間として生きている時には聞かれたことのないセリフだ。
さて、何て答えよう。
此処で「人間です」と答えるのが普通だろう。
一番怪しまれずに済む。
次に何故その質問をしたのかを尋ねるだろう。
今目の前で話している伏見さんはどうしてその質問をしたのかを知る権利が俺にはある。
俺の発した言葉は俺自身も意外な言葉だった。
「違います」
否定文。
文、とは言えないが確実に「人間」と言うのを否定した。
俺は吸血鬼だと伝えてはいないが、人間と言うのを否定した。
「何故、その質問を?」
続けて俺は問うた。
伏見さんは考えることなくすぐに口を開いて返答する。
「お前の歯、それ牙だろ」
隊員の前で牙が見えるように口を開けた記憶はない。
いつも人間の歯と同じようには出来ないが、小さく口を開いて会話をしていた。
いつ、どこで俺の歯が牙だとこの人は知ったんだ……?
「牙ですけど……」
口を開けて俺は牙を見せた。
何故か伏見さんは笑っていた。
その理由はまだ気付かないまま。
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