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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十五話  戦争への道 
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気を取り直して問い掛けると国務尚書はニヤニヤ笑いを納めヴァレンシュタイン元帥に視線を向けた。元帥が一つ頷く。

「両方を煽っているのではないかと思いますよ。彼が必要としているのは混乱と騒動です。出来るだけ対立を深め引っ掻き回したい、地球教、反乱軍が制御出来ない程の混乱を作り出す。そして帝国が出兵出来るだけの理由を作る、そう考えているのだと思います。現時点では取り敢えず対立を深める、それを目的にしているでしょう」
「なるほど」
私が頷くとヴァレンシュタイン元帥が笑みを漏らした。

「レムシャイド伯の暗殺を考えるとすればルビンスキーでしょうね。地球教、反乱軍を精神的に追い詰めるには最高のカードです。帝国も出兵するだけの名分を持つ事が出来ます。お分かりでしょう? レムシャイド伯自らが反乱軍と交渉したのですから」
その通りだ、分かっている。

帝国は反乱軍のフェザーン進駐を認めるに当たり八項目の条件を呑ませた。その中の第六条で反乱軍はフェザーンにおける帝国高等弁務官の権利、安全、そして行動の自由を保障する事を約束している。また第八条では帝国に対し反帝国的な活動を行なわない事。もし反帝国的な活動が有ったと帝国が認めた場合、反乱軍はフェザーンに進駐する正当な理由、権利の全てを失う事も認めさせている。

「ルビンスキーめ、当てが外れたかの」
含み笑いを漏らしながら国務尚書が元帥に視線を向けた。
「そうそう彼の思い通りにはさせません。多少は苦労をして貰います。彼は敵が多いですからね、生き残れるかどうか……。その力量がどの程度の物か、見せて貰いましょう」
声も冷たければ言葉も冷たい。ヴァレンシュタイン元帥が冷笑を浮かべると国務尚書が私を見て笑い声を上げた。

「怖い男であろう、レムシャイド伯。他人事のように言っておるがルビンスキーを邪魔だと思っているのは司令長官も同じよ」
「……」
言葉が出ない、先程までの元帥とはまるで違う。何時の間にか春の陽だまりから厳冬の寒風に変わっていた。そんな私を見て国務尚書がまた笑った。
「早ければ年内、遅くとも来年早々には出兵になる筈だ。軍はイゼルローン、フェザーンの二正面作戦を展開する。卿はフェザーン方面軍に同行する。良いな?」
「はっ」
私が答えると国務尚書が満足げに頷いた。

「フェザーン占領後は卿がフェザーンの占領行政の責任者となる。軍とは十分に意識を合わせておくことじゃ」
「承知しました」
「それと政府閣僚ともだ、頼むぞ」
「はっ」
責任重大だな。ヴァレンシュタイン元帥に視線を向けた。元帥は先程とは違う穏やかな笑みを浮かべていた。春の陽だまりだ。



帝国暦 489年 9月 30日  オーディン マリーンドルフ伯爵邸  コルネリアス・ルッツ



伯爵邸の応接
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