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その魂に祝福を
魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり1
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 出会って二ヶ月ほどたったその日。仇の何人かを始末し、隠れ家に戻った時の事だ。
「お前は何故私に協力してくれるんだ?」
 その日、何の前触れも無く彼女が声をかけてきた。実際、それは珍しい事だった。行動を共にしてからの二ヶ月間、会話らしい会話をした事などほとんどなかった。それは当然だろう。彼女――御神美沙斗にとって、自分は異能を使う得体の知れない怪物に過ぎないのだ。しかし、だからこそ利用価値もある。だから連れて歩いているにすぎない。
 少なくとも、この時まではそう思っていた。だから、何故『協力』してくれるのかと問われた時は、随分と困惑したものだ。確かに自分は『相棒』を探すついでとはいえ、協力しているつもりだったが――彼女がそう考えているとは思っていなかった。
「いくら相手が外道とはいえ、私がしている事は人殺しだ。なのに、何故?」
 正義のための人殺し。それが魔法使いだった。だから、彼女に協力する事には元々何の躊躇いもない。それに、自分にとってもあの連中は『仇』だった。この器を殺したのは間違いなくあの連中なのだから。例え、記憶の混濁が見せる錯覚だとしても――それでも、殺された無念はこの胸にある。それを晴らしてやらなければならない。それが、名前も知らない誰かを――その場所を奪い取ってしまったせめてもの償いだった。
 彼女はどうやら動揺しているらしい。返事を誤魔化すような気分で、そう判断した。理由は、今日の戦闘だろう。殺した仇の一人が持っていた家族の写真。血塗れのそれをしばらく睨みつけていたのを覚えている。彼女の復讐の理由。それを考えれば、思う事もあったのだろうが。
「……にわかには信じられないが」
 結局、正直に話す事に決めた。かつて存在していた名も無き――名前さえ失ったとある魔法使いが、何かの弾みで誰かの死体にとり憑き蘇ったのが今の自分であること。その誰かを殺したのが、あの連中であること。奪い取ってしまった、せめてもの贖罪であること。それに何よりも、彼女を――生き急ぐどこぞのバカ野郎を放ってはおけないという事を。
「誰がバカ野郎だ」
 口では毒づきながら、それでも彼女は笑っていた。そして、ひとしきり笑ってから、こう言った。
「いつの事だ?」
 何の事だ?――訊き返した自分に、彼女は重ねてこう言った。
「お前の誕生日だよ。……ああいや、今の話からすればあの日か」
 あの日。おそらく、相棒が復讐を誓った日の事だろう。この身体の本来の主が殺された日の事だ。誕生日と呼ぶには血生臭すぎる。
「それで、名前は? 本当に覚えていないのか?」
 残念ながら、かつての自分の名前は『失われて』いる。その身体の記憶は、完全に忘れてしまった。混濁する記憶の中から、それを見つけ出すことはできそうにない。あるいは、自分の『代償』に巻き込まれたのかも
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