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比翼連理の赤と青と
三話 赤い赤色
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か。もしそうだとするなら、彼女はどれだけの覚悟を、あの時に決めていたのだろう。
「……用件がそれだけなら、もう、充分でしょう。私だって、傷がつかないというわけではないの」
 ガァン、と二度目の轟音が鳴った。また赤城が机を叩いた音だった。鉄製の机の天板がくの字に歪む。
「加賀さんは、それでいいんですか! 私がそんな方法で提督を手に入れて、喜ぶとでも、思っているんですか! 加賀さんは結局、不幸でいたいんじゃないんですか。悲劇のヒロインを気取って、私は不幸だわ、可哀想だわ、って、逃げているだけなんじゃないですか!」
 加賀はきっ、と赤い目を吊り上げて言い返す。
「悲劇のヒロインだなんて、そんなつもりはまったくない。不幸でなんか、いたくない。私は、幸せになりたい!
 赤城さんが……赤城さんが、提督を手に入れても嬉しくないなら、私が、わたしが――提督とケッコンすればよかった!」
 加賀は初めて大声で、本音を吐いた。シン、と空気が鳴る。加賀はその場で膝を落としてぼろぼろと涙をこぼした。赤城が私の上から飛び退いて、腰を落として加賀を正面から抱きしめる。
「聞いて、加賀さん。私も提督が好き。でも、加賀さんも、好き。だから、加賀さんが遠慮する必要なんて、ないんです」
 加賀が、しゃくり上げながら、じゃあ、わたしはどうすればいいの、と呟く。
「加賀さんは連理の枝ってご存じですか?」
 赤城が私に問うたように加賀に尋ねる。
「……知っています」
 『比翼の鳥』と『連理の枝』は一組の言葉である。加賀が知っているのは当然だった。加賀は鼻をスン、と鳴らす。赤城の質問の意図を判りかねている様子だった。
「提督には話しましたけど――枝が離れても、何も変わらないんですよ。枝なんてただの比喩で、想う気持ちがあれば喩える必要もないんです。私が提督を好きな気持ちも、加賀さんが提督を好きな気持ちも、変わらなければ、そこにないように見えても、やっぱりそこにあるんです。だから、要らない『枝』は伐ってしまってもいいんです」
 赤城の手には鈍色に光るものが握られていた。私の引き出しにあった、執務に使うペーパーナイフである。軍から支給された、剛性の高いものである。
「加賀さん、これ、勇気要りますね」
 赤城は右手でしっかりとペーパーナイフを握り、左手を机に押し付けていた。いくらペーパーナイフとはいえ、机を歪ませるくらいの力で突き刺せば指は切断できる――だろう。
「赤城!」
 私が赤城を止めようとすると、彼女はいつか加賀がしていたように、ペーパーナイフを持った右手で私を制止した。
「提督、私は言ったはずですよ――加賀さんにできて、私にできない覚悟はありません。その想いは、いつだって、あの時だって、今だって、変わりません」
 ああ……こんな時まで、赤城は変わらないんだな。
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