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比翼連理の赤と青と
三話 赤い赤色
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の。それだけのことよ」
 それの意味するところは、自分で、自分の指を――。
「今更だけれど、『私のこともどうか嫌いにならないで』だなんて、都合がよすぎたわね」
 私が絶句しているのを見て、さらに言葉を紡ぐ加賀。
「提督。私のことは、嫌ってくださって構いません。私は、指を自分で切断する、気の違った女です。今回は一機、発艦を失敗してしまいましたが、これから練習をして慣れますから、艦隊には、どうか居させてください…………これくらいなら、お願いしても罰は当たらないかしら」
 そう言って、加賀はさっさと着艦を済ませて私から離れた。私はそんな加賀を離したくなくて、手を掴む。
「なぁ、ドックに行って治してもらおう。あそこなら、どんな傷だって――」
 そう言ってから、気付く。彼女があの日の夜、どこにいたのかを。
「無理でした。ケッコンユビワの予期していない使い方をしたせいか、ドックでも治すことはできなかったようです。出血は止まるようですが」
 加賀はいつもと変わらない調子で言う。否、いつもと変わらないよう自らに強いているような調子で言う。そんな言い方をしないでくれ――そう叫びたかった。彼女は、もっと、感情を出していいんだ。彼女は、もっと幸せになるべきなんだ。彼女のひたむきさは、悪いものなんかではない。悪いのも、気が違っているのも、私の方だ。好きな女性にここまでさせてしまうなんて――。それに気付かないなんて――。
 赤城から言われた言葉を思い出す。提督も変わらないでほしいと、加賀を好きでいてほしいと、そう言っていた。その通りだ。私は変わらないと、加賀のことが好きだと、伝えたかった。しかし、口が自由に動かなかった。
 そうしているうちに、加賀が離れて、別離の言葉のように言う。
「赤城さんには提督から言ってあげてください。このままだと、赤城さんまで私みたいになってしまいますから。

 それから――――赤城さんと、お幸せに」

 ◆

「見ちゃいました。提督の浮気者!」
 赤城が司令官室に入ってきた。左手には件の銀色の輪が光っていた。
「加賀さんと何か話していたでしょう。私と言うものがありながら……」
 およよ、と泣き真似をする赤城。いつもならば、その明るさに助けられている私だったが、今はそれすらも煩わしい。
「……ごめんなさい。提督。私、見ていました」
 赤城が急に、静かになる。それだけで部屋の温度が下がった気がした。それだけ、彼女はいつもあたたかい人だったのだと思う。
「言い訳みたいですけど――いいえ、言い訳ですけど、加賀さんが、あそこまでやるとは思ってませんでした」
 赤城が左手を透かすように見る。その顔は万華鏡を覗く少女のようで、いつもの変わらない赤城だった。
「加賀さんには、敵わないですね。わざと私に先にユビワを着けさせ
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