二話 青い危険色
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「提督は『連理の枝』ってご存じですか?」
赤城が八十二機の艦戦、艦攻、艦爆をそれぞれ飛ばしていた。発艦及び編隊統率と着艦練習のため、それらは赤城の頭上をくるくると旋回している。私は赤城の邪魔にならないよう、飛行甲板の付近を避けつつ、傍で座っていた。まるで、小鳥に懐かれている少女のようだ、と思う。
彼女の可愛らしさは、加賀のそれより万人受けするもので、私も多分に漏れず、ずっとこうして彼女の姿を見ていたいと思った。彼女の傍は、なんとも言えずあたたかい。それに、可愛いらしいと思った矢先にきりっとした顔も見せるのだから、油断できない。
「中国の故事だってことは知ってるよ」
私は吸っている煙草を消した。上空を舞う小鳥たちに失礼な気がしたからだ。
「『連理の枝』は、二本の木の枝が、こうやって絡みつくことです」
赤城は組むようにして手を繋いできた。私の腰にそっと手を回す。互いの鼓動が、息遣いが、感じられる距離だった。
「転じて、私たちみたいな仲睦まじい人を指す言葉でも、あるんです」
彼女は、意を決したような表情をして、そっと私に唇を合わせた。繋いだ手が震えている。蒸している夏のことである。寒気のせいではない。
「やだ、私ったら。緊張してしまいました」
赤城がぎこちなく笑って私から離れる。同時に体温が消える。私はもっと彼女を感じていたかったので、思わず手を伸ばしかけたが、彼女の顔を見て私の動作は止まってしまう。
「変わらないんですよ」
夕暮れのせいか、彼女がやけに大人びて見える。私はその変貌に息を呑み、意味を聞き返すことができなかった。
「ねぇ、こうして枝が離れても、何も変わらないんですよ。私が提督を好きな気持ちも、この、温もりも。変わらないんです。だから、できれば提督も変わらないでください。加賀さんを、好きでいてください。私を、なるべくでいいですから、好きでいて、ください」
赤城はもう一度だけ、何も変わらないんです、と口に出した。
単に少女の想いというには重すぎる、身体の内側に染みこむようなそれは、まるで呪いのようだった。
◆
加賀はケッコン期間中、たまに私に体重を預けては、そっと微笑んで、秘書艦の仕事を勤めていた。「赤城さんと何を話していたの?」
何気なく問われ、なんと説明していいものか窮していると、加賀は察するように言葉を紡いだ。
「ごめんなさい。詮索するなんて、よくないわね。でも、今は私が妻ですから、私のところに戻ってきてくれれば、それでいいの……」
そう言ったきり、黙ってしまった。怒ったのだろうか、と顔を見遣ると、加賀は左手の薬指を光に透かすように眺めていた。まるで私と加賀を繋ぐものが愛情ではなく、この形式上のユビワだけなのだと言わんばかりだった。怒ってくれていた方がましだと思う。そうやって
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