一話 白い難色
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ケッコンカッコカリシステム。
それは十分に錬度を積んだ艦娘とケッコンカッコカリと呼ばれる儀式を交わして、その艦娘をより強化し、より低コストに運用することができるシステムである。画期的なシステムの導入自体は喜ばしいことであるが、問題は名称にあった。システム名に婚姻を思わせる名称を付ければ、当然、女性の心を持った艦娘たちのことである、心中穏やかではいられないだろう。
もっとも、上層部の狙いはそこにあるのだと思う。つまり、女性の心を持った艦娘を効果的に運用するには、女性の心を利用するのがいいと考えたのだろう。卑劣なやり方と言えばその通りだし、そういう手段に訴えなければならないほど切羽詰まっている状況なのだと言えば、その通りである。
実際――褒められたやり方か否かは別にして――このシステムはうまくできていると思う。もしも肉体面への強化がなくても『自分は特別だ』と、『自分は、伴侶なのだ』と、そう自覚するだけで女性は、否、人は強くなれるものだ。私だって、例外ではない。きっと、目の前の二人がいなければ、いつ終わるのかわからない戦いに消耗させられて、何と戦っているのかわからない戦いに磨耗させられて、とっくに鎮守府か世を去っていたに違いないのだ。そう考えれば、二人には感謝してもしきれない。人を恋慕うことは、強さなのだ。そんな私にとって、彼女らのうち、片方を選ぶというのは、私の半身を失うことと同義なのである。
◆
彼女らに背を向けて、外を見ていると、駆逐艦・五月雨がクワガタだかカブトムシだかを捕ったらしい。同じく駆逐艦の朧がカニと戦わせようとして、同型艦の潮が止めようとするも止められずに右往左往していた。その風景を、私は愛しく思う。オノマトペで表現すると、ほのぼの、というやつである。
「……提督」
赤城と加賀、二人の声が重なった。
「わかっている。……私だって、迷うさ」
手慰みに帽子をくるくると回す。私の制服は全身白ずくめで、帽子もその例外でなく白い。さながらこの白帽は降参の旗印であった。
私と赤城と加賀がいる司令官室の机の上には、本部から手に入れたケッコンユビワという機器が箱に入った状態で置かれていた。一見すると、頼りなさげな指輪にしか見えないが、最新の技術が使われているそうで、艦娘との親和性についても臨床データは多くないため細心の注意を払って扱うよう言われていた。単純に、作るのに金がかかるというのもあるだろうが。
「提督がそこまでにお悩みになるのなら」
赤城を隠すように立っていた加賀が、さらに一歩踏み出す。そして机の上の箱を開けた。赤城はそれを間の抜けた顔で後ろから覗いていた。まさか、加賀が自分を出し抜くわけがないと信頼していたのだろう。しかし、加賀はいとも簡単に、ユビワを自身の左手の薬指に填めたのだった。
「あっ……
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