第短編話
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『炬燵と映画』
「あ〜……」
「ふぅ……」
炬燵。コタツとカタカナで表記されることの多いソレは、古来より人間を吸い込む魔力を持っている。その魔力に魅入られてしまった者は、もはやその炬燵から自力で抜け出すことは叶わず、永遠に炬燵で蜜柑を貪り続けるという……
日本由来のその恐ろしい呪いの装備は、もう既に全国を侵略し始めている。もう多数の人間が「炬燵無しでは生活出来ない」と、その侵略に屈してしまっているのだ。昔ながらの日本家屋である我が家にも、もちろんその侵略は及んでおり、興味本位で押し入れから引っ張り出し――
――俺と里香は、炬燵の呪いに囚われてしまっていたのだった。
「んー……」
もはや二人とも寝転んでゴロゴロするか備え付けられた蜜柑を食べるか、という動作しか出来なくなっており、言葉の呂律も回っていない。炬燵の呪いの典型的な症状に、このままではまずい――という考えが及ぶものの、それでも動く気になれないとは、恐るべき炬燵の魔力。侮っていた。
「里香ー。映画は?」
「えー?」
……さて、本題に入ると。里香の好きな映画のDVDを偶然ながら手に入れたので、プレゼントする前に一緒に見ようという事になり。常々お勧めはされていたものの、見る機会がなかったので、非常に楽しみにしていた……の、だが。
まだその映画のDVDは炬燵の上にあった。上映すらされていないどころか、まだ再生機にすら入れていない……映画を上映するにあたって、ある問題点が俺たちを襲っていたのだ。
「あんたの家なんだからあんたがよろしくー」
「お前の方がDVDに近いだろー」
――そう、炬燵の呪いの効力である。DVDの再生機までは俺のところからは八歩、里香のところからは五歩程度。普段ならば取るに足らない距離だったが、炬燵の呪いによってここから動けない俺たちにとって、困難極まりない距離であった。
「里香ー、頼むー」
「無理ー」
炬燵の呪いの効力によって自然と語尾が伸びる。今の俺たちにはグデーっという擬音が相応しく、もはや蜜柑を食うしか出来ない末期症状に陥っていたのだ。この呪いをどちらかが解き放たなければ、俺たちは映画を見ることは出来ない。
「炬燵から出なくても手を伸ばせば届かないか?」
「無理ー」
「……キリトの本名は?」
「無理ー」
……里香の思考が朦朧としてきていた、もはや何を聞いても「無理ー」としか言えないのかも知れない。この状態から脱するには、机の上にある映画を上映する他ないが動けない無理ー。
「……っ!?」
……ダメだ、気をしっかり持たなくては呪いに屈した里香の二の舞になってしまう。しかし、動きたくないのは本当な訳で。どうにかして、俺はこのままの
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