第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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の警戒を見せる。
しかし、丘の上に立つ老人は、警戒を見せる士郎を欠片も気にかける様子も見せるどころか、楽しげに声を弾ませていた。
「そこの小娘を捌いた技は八卦掌の手法の一つだな。それに先程狼を打ち倒した動き……あれは八極拳。まさかこのような異界で同門の者と出会おうとは思いもしなんだ」
「同、門?」
老人が口にした言葉に、士郎の眉が訝しげに歪む。
「呵々、そう警戒するでない。少し話がしたいだけよ」
「……それを信じろと」
呵々と笑いながら、老人は士郎に軽い口調で話しかけるが、士郎は欠片も警戒を崩すことなく、それどころか更に強くしながら丘の上を睨み付ける。老人は大の男でも泣いて腰を抜かす程の眼光を軽く受け流すと、口の端を軽く上げてみせた。
「儂がお主を殺そうと思うておったのならば、既にお主は生きてはおらぬよ。それぐらいはお主も分かっておろうが」
「……」
肯定や否定の言葉が返ってこない事を気にすることなく、老人は士郎の手足に視線を向けた。
「ふむ、まあ警戒するなとは言わんが、先程の問にぐらいは答えて欲しいものよ。お主の技。あれは八極拳だな。とは言え純粋な八極門の者ではないようだが……若いながらに中々の功夫。名を聞いてみたいと思うてな」
「……人に名を聞く際は、まずは自分の名を先に口にするのが礼儀なのでは御老人」
士郎の返事が予想外だったのか。一瞬呆気に取られたように目を見開いた老人だったが、直ぐに顔を槍を握っていない左手で覆うと、からからと笑い声を上げた。
「っはははは……いやすまん。久々にそのような事を言われたのでな。まあ、確かにその通り。ふむ、それならば、まずは儂の名から告げようか」
士郎の言葉に最もだとでも言うように、頭を上下させた老人は、士郎に改めて向かい合うと己の名を告げようと口を開く―――が、
「儂は―――」
名を告げることは出来なかった―――それを遮るものが現れたからだ。
霧のような雨が降る中、眩い輝きが士郎の後ろから現れたかと思うと、それは残光を残し一気に丘の上へと駆け上がっていく。咆哮の如く口から発せられるのは、憎しみに満ちた怨念で形造られた人の名であった。
「リイイいいィィッ―――ショブンンンンンッッ!!!」
放たれた矢のごとく真っ直ぐに丘の上に立つ老人に向かって駆けるサーシャ。既にサーシャと老人との間は五メートルもない。今のサーシャの疾さは、それこそサーヴァントに匹敵する。瞬きする間もなくサーシャの握る短剣は、老人のか細い首を切り裂くだろう。避けることも防ぐことも不可能。
しかし―――
「ッ―――待てッ!?」
その直前、士郎の口から出たのは、制止の言葉だった。何の根拠もない、直感から来る制止の言葉。
そ
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