第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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んな動きをする奴なんて、あいつ以外に見たこともなかった……」
「………………」
「―――シロウ。もう一度聞くわ」
押し黙る士郎の様子に、押さえ込まれたままサーシャは一度目を閉じると、深く息を吸い、吐くと同時に目を開ける。開かれた瞳は、真実を見極めんと、初めに見た理知的に輝く翠の輝きを見せていた。
翠の瞳でサーシャは睨み付けるように士郎を見つめながら、ゆっくりと口を動かす。
「あなた、一体何者?」
「―――……俺は―――」
サーシャの懇願に似た問いを受けた士郎は、硬く閉じられた口を開き。サーシャの問いに応えようとした―――その時。
「―――それは儂も聞きたいの」
「「―――ッ!!?」」
背後から歳経た男の声が上がった。瞬間、士郎はサーシャの身体を抱えると同時に前へと飛ぶ。空中でサーシャの身体を整え、着地と同時に自分の背後へと隠す。視線の先は、最初雨宿りしていた丘の上にある木。その前に、一人の痩身の男が立っていた。黒い中華風の服を着た男は、長い、自分の身長の倍以上はあるだろう槍を右手に持ち、霧雨が降る中、士郎たちを見下ろしていた。
若くはない。
老人と言ってもいいだろう。
百七十に満たないだろう身長に、年月により肉が削げた身体。顔に刻まれた深い皺は、まるで古木のようだ。
だが、この男を前に、間違ってもか弱いなどといった言葉は出てこないだろう。
何処からどう見ても只の老境に至った老人である。身体付きに特別目を引くような異常は何処にも見られない。
しかし、違う。
明らかに只者ではない。
当たり前だ。
年経ただけのただの老人が、こんな気配を身に纏えるはずがない。
―――重い。
自分の体重が急に何倍にもなったかのような圧力を感じる。
バーサーカーの背筋が粟立ち、血の気が引くような狂的な暴の気配ではない。
似ているとしたら、セイバーだろうか。
しかし、重みが違う。
鋭く疾い風を思わせるセイバーに対し、この老人からは、樹齢数千年の古樹、否、霊峰の大山の如く一種の神聖さえ感じられる。
その身に纏う気配に、士郎は一瞬仙人ではないかとの考えが浮かぶが、それは形になることなく直ぐに霧散した。
それは老人の目を見たからだ。
―――虎。
虎のようだと、その男の目を見た士郎は思った。
それも只の虎ではない。
空を往く龍さえも地に叩き伏せる力を持った神虎だ。
別に獅子や猫でも別に構わない。ただそこにいるだけならば、何だって構わないのだが。
最悪なことに、この虎は飢えているということだ。
何にとは問わずとも明らかだ。
知らず荒れる呼吸を必死に整えながら、吹き出る汗も拭いもせず士郎は老人に対し最大級
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