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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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った士郎は、そのまま勢いを殺すことなくサーシャの身体を地面に押さえつけた。その際、地面に押さえ込まれた衝撃により、サーシャの両手から短剣は離れていた。サーシャは士郎の拘束から逃れようと暴れる。しかし、関節ではなく力が出ない形で押さえ込まれている上、決して軽くはない体格の良い士郎の体重が乗ってもいるのだ。頼みの“ガンダールヴ”としての力も、武器が手がない以上使えるわけがなく、単純な女の力で抜け出せる事は不可能であった。

「ぐ、っ離せッ!!」
「っこの、落ち着けと言っているだろっ!!」

 細い手足を子供が駄々を捏ねるように暴れさせるサーシャに、士郎が必死に落ち着かせようと声を掛ける。しかし、サーシャは強姦魔に押し倒された少女のように、狂ったように暴れるだけで、士郎の声に耳を貸そうとはしない。癇癪を爆発させた幼子のように、サーシャはやたらめったらに両手足を暴れさせる。ピンク色の真珠のような爪が、サーシャを押さえつける士郎の腕や顔を引っ掻く。頬や手にうっすらと血を滲ませながら、士郎は必死にサーシャに語りかける。

「どうした? 何があった? 何故俺に襲いかかる? 少しでいい、落ち着いて俺の話を聞いてくれっ、頼む―――サーシャッ」
「―――ッ…っ…………」

 士郎の絞り出すような懇願の声に、暴れていたサーシャの手足がピタリと止まり、雨で濡れた草の上にドサリと落ちた。

「……落ち着いたかサーシャ?」
「……」

 サーシャは答えない。ただ、地面に顔を付けたうつ伏せの状態で、死体のように黙り込んでいる。

「一体、どうし―――」

 暴れるのを止めたサーシャを押さえつけたまま、士郎が突然の狂乱したかのように暴れ始めた理由を聞こうと口を開けた時だった。

「いまのは―――なに?」

 それは、地の底で蠢くマグマのような憎しみや怒り等の負の感情に満ちた声だった。そんな声で返って来た返信に、士郎は慎重に落ち着いた声で対する答えを向ける。

「いまの、とは?」
「……あなたが狼を撃退した際の、あの動きよ」
「直突のことか?」
「直、突?」
 
 ようやく、サーシャが肩ごしに士郎に振り返る。チラリと見えた瞳は、未だ燻る負の感情を燃料に燃え盛る炎が見える。

「同じだった……」

 サーシャの憎しみに満ちた声に、士郎の口元が僅かに軋む。

「何がだ?」
「……仲間を……父さんを殺したあいつと同じだったのよ―――ッ!」

 額を地面に押し付けながら、サーシャは吠えるように叫ぶ。
 しかし、直ぐに力なく身体を投げ出すように力を抜くと、顔を傾け士郎を見上げた。

「サーシャ?」

 士郎を見つめる瞳は、先程見せた業火のような熱は既になく。何処か迷子の子供のような弱さが見えた。
 
「……あ
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