第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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いた。三匹の狼に同時に襲いかかられる。鈍い輝きを見せる牙を剥き出した狼が三匹並んで飛び掛ってくるさまは、さながら三つの頭を持つケルベロスのよう。しかし、士郎は恐れず慌てず左の腕を狼に向ける。狼に向けられる左手は開き、その指は天に向けていた。そして、足を上げず両足をすり合わせるように両足を動かし、地上に円を描く。ぬかるみを歩くかのようにゆっくりとした動き。
狼の瞳が嘲るかのように細められ―――大きく開かれた口が閉じられた。
しかし、士郎の身体に狼の牙が触れる事はなかった。
咬み閉じられた口中に馴染みの味が感じられず、三匹の狼が中空でポカンとしたかのように瞳が丸くなり―――。
「噴ッ!!」
狼の側面に移動していた士郎の拳が突き出された。
大地が震える震脚と共に放たれた拳は、無防備な横腹に突き刺さり、三匹の狼が纏まって吹き飛ばされる。一固まりになって殴り飛ばされた狼は、地面に叩きつけられ濡れた草の上をゴロゴロと勢いよく転がっていく。回転が止まった時、狼たちの身体は士郎から軽く二十メートルは離れていた位置にあった。僅かに胸が上下していることから、生きてはいるのだろうが、下を出しピクリとも身動きしないその姿を見ると、このまま衰弱死しても何らおかしくはないだろう。
吹き飛ばされた狼が動かないことを確認すると、士郎はサーシャに向かって顔を向ける。
あっと言う間に仲間を倒された事で戦力差を思い知ったのだろう、サーシャを取り囲んでいた狼たちが草むらに逃げ込んでいた。ぐるりと辺りを見渡し、危険が去ったのを確認した士郎は、サーシャに向かって歩き出す。サーシャは顔を伏せて、何やら身体を震わせている。怪我でもしたのかとサーシャに手を伸ばしながら、士郎が話しかけようとした―――その時。
「どうした、怪我でもし―――ッ!?」
「ッああああああぁぁぁ!!」
サーシャの左手が一際強く輝き、短剣が士郎に向かって振るわれた。
咄嗟に背後に飛び退いた士郎の顔が強ばる。
「な、何をす―――!?」
士郎の問いに答えることなく、目にすれば痛みすら感じられる程の光量を放つ左手に短剣を握り締めながらサーシャが襲いかかってくる。森の緑のように美しかった瞳は、今や憤怒と憎しみで真っ赤に燃えていた。
「っ!!」
「くっ」
人の限界を越えた速度で迫るサーシャ。突き出される短剣の切っ先は、もしかすると音速に迫っているかもしれない。音の壁を突き破りながら迫る剣の先を、士郎は―――。
「―――なっ?!」
短剣の切っ先が胸に食い込む直前、士郎はサーシャの短剣を握る手を巻き込むように受けると、そのまま転がすようにして後方に逸らした。勢いサーシャの身体が導かれるように士郎身体の真横を通り過ぎる。通り過ぎていくサーシャの背後に取
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