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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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。しかし、サーシャは士郎の手をサッと避けると、振り返って笑ってみせた。

「いいから任せて頂戴。ちょっと腕には自身があるから、それに、あなたと違って一応武器は持っているのよ」

 そう言いながら、サーシャは懐から二つの短剣を取り出し両手で握る。その一つ、短剣を握った左手を士郎に向けた時、サーシャの身体の一部に変化が起きた。ソレを目にした士郎の目が、驚愕に見開かれる。短剣を握ったサーシャの左手が、光り輝きだしたのだ。発光元は、左手の甲に刻まれたルーン文字。士郎はサーシャの左手に刻まれた文字が何と書かれていたか目にした瞬間気付いていた。何せもう随分と見慣れたものである。一日に見ない日はないと言ってもいい程に。何故ならば、それは自分の左手にも同じように刻まれているからだ。
 そう―――ガンダールヴ、と。

「サー―――」

 サーシャの左手に刻まれたものについて、士郎が問いかけようとした時には、既に彼女の身体は木陰から姿を消していた。
 反射的に向けられた視線の先には、細い銀線のような雨の中を黄金の光が突き進んでいた。
 
 ―――ギャンッ!

 同時に二つ。重なった狼の悲鳴が響く。首を刈られた二匹の狼が、濡れた草の上を血の泡を吹きながら転がっている。雨の中、金の光がくるくると回っていた。両手に短剣を握ったサーシャがコマのように回り二匹の狼の首を切り裂いたのだ。一瞬にして仲間を殺された狼は、しかし恐ることなくサーシャに襲いかかる。四方から襲いかかる狼を、サーシャは踊り子のような軽やかな動きで捌き、そして両手の短剣で切り裂く。先の二匹のように一振りで絶命させることは出来ないが、しかし確実にサーシャが剣を振るたびに狼たちの身体には傷が生まれていた。無数の狼の襲われながらも、全く危うげを見せないサーシャ。毛ほどの傷もつけられず、自分たちだけが血を流す現状に、勝てないと判断した狼たちは、標的を変え士郎にその牙を向ける。サーシャの足止めのために四匹の狼が残り、それ以外が全て一斉に士郎に襲いかかった。
 狼に足止めをくらったサーシャが、焦ったように士郎に顔を向ける。只者ではないとは感じてはいたが、武器を持っているようには見えなかった。素手であの数の狼を相手にするには、流石に厳しいとサーシャは焦り士郎に逃げろと声を上げようとしたが―――それが形になることはなかった。

「―――破ッ!!」

 剥き出しにした牙を突き立てんと飛びかかってきた狼の腹に潜り込むように身体を沈ませた士郎が、右腕を折りたたみ鋭利に尖らせた肘の先をがら空きの胴に突き立てた。
 槍の穂先のように鋭く尖らせた肘先は、野生で鍛えられた狼の腹筋を容易く貫き内蔵の幾つかを破壊した。狼の身体が倍速で逆再生されたかのように後方へ飛んでいく中、士郎に向かって三匹の狼が既に飛びかかって
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