第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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たしって結構人見知りする方なんだけど、あなたにはそういった感じがしないのよね。ねぇ、どうしてか分かる?」
「さて、全く分からないな」
軽く肩を竦めて見せる士郎に、サーシャは背にした木の幹にコツンと後頭部を当て頭上を見上げた。
「……なんだか初めて会った気がしないのよね。最初はあいつらと何か似てたからだと思ってたんだけど……どうもそんな感じじゃないのよね」
「すまないが、その『あいつら』とは一体何のことだ? 俺に似ていると言うが、何の事を言っているんだ?」
士郎の問いに、サーシャは後頭部を木に当てながら顔を横に向けた。士郎とサーシャの視線が交わる。光に透ける緑の葉のように綺麗な翠の瞳に見つめられながら、士郎が返答を待っていると、サーシャは細いおとがいに指先を当てながら目を細めた。
「……どうも本当にあいつらの事を知らないみたいね。どうやらシロウは随分平和なところから来たようね」
「その言葉からすると、『あいつら』とやらは、随分と物騒な連中みたいだな」
「ええ、そうよ。何せあいつらは―――悪魔と呼ばれる程に恐れられているから」
悪魔という言葉に士郎の両の目が微かに開かれたが、サーシャはそれに気付くことはなかった。
「……俺に似ていると言ったが、その悪魔とやらは一体どんなものなんだ」
「それは―――」
士郎の問いにサーシャが答えようと口を開いたが、それは直ぐに閉じられる事になった。士郎に向けていた視線は、鋭く細められ別の方向に向けられていた。士郎もまた、唐突に閉ざされた言葉の続きを求めることなく、サーシャと同じ場所を見つめていた。二人の視線の先には、未だ降り続く雨の向こうに霞む膝上程に伸びた草むらがある。
二人の視線の先にある二十メートル程離れた場所にある草むらの一部が、不意にガサリと揺れる。
草の間から姿を現したのは、子牛程の大きさがある狼であった。一頭だけではなく、ぞくぞくと草むらの中から姿を現す。二十頭はいるだろう狼の群れは、唸り声一つ上げることなく、ゆっくりと士郎たちを取り囲むように広がっていく。
あっと言う間に狼たちに包囲された士郎とサーシャは、しかし慌てることなく互いに視線を交わした。
「さて、すっかり取り囲まれてしまったようだが、どうする?」
「どうもこうも、勿論大人しく狼の夕食になりたくはないから抵抗はさせてもらうわよ。そう言うあなたはどうするつもりなの?」
「俺も晩餐にはなりたくはないからな」
「そう言うけど、素手でどうするつもりなのよ。まあ、いいわ。あなたはそこで見ていなさい。狼程度なら、わたし一人で十分よ」
「いや、それは―――」
士郎が前へと出ようとするサーシャに手を伸ばそうとする
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