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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第二話 八極
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…俺に何か用か?」

 士郎の顔が一帯に広がる草原に見える―――腰ほどの高さにまで伸びた草むらに向けられる。
 向けられた先からは反応はない。
 しかし、士郎は構わず声をかける。

「―――そこにいるのは分かっている。隠れていないで出てきたらどうだ?」

 しかし誰かが姿を現すことも返事が返ってくることもなかった。
 何の反応もないことから、士郎が自分から行くか? と考えた時だった。
 
「……あなたこそ誰なのよ。こんな場所でそんな格好で……どう見ても旅人とかじゃないわよね」

 伏せて隠れていたのだろう、身体の前の方を叩き土や草を払いながら立ち上がってきたのは、草色のローブを着た女性だった。顔はフードを被っていて分からないが、その身体付きからして女性で間違いはないだろう。
 
「まあ、確かに旅人ではないな。そういう君も旅人には見えんが」

 フードを被った女は見たところ大きな荷物は持ってはいない。それならば狩人かと思うが、弓も持っておらずそれらしい様子もないことからそれも違うだろう。

「そうね。わたしも旅人ではないわ。でも、あなたから先に答えて欲しいわね」

 フードの奥、女の目が鋭く光り、腰が僅かに下がり重心が前へ。傍から見れば僅かに身体を揺すっただけのようにも見えるが、見るものが見ればわかる。これは攻撃の前に前段階。その証拠に、今にも飛びかからんとする狼の如く、女の身に纏う気配が鋭くなる。

「あなた―――何者?」

 隙を見せれば牙を突き立てんとする獣の如き気配を漂わせる女を前に、士郎はどうしてこう出会う女は明らかにヤバイ奴ばかりなんだと内心ため息をつきながら、攻撃の意思はないとばかりに両手を上げてみせる。

「ふむ。まあ、今はただの迷子といったところか」
「……迷、子?」

 予想外の返答に、戸惑うように女の頭が傾ぐ。

「どう言う意味?」
「そのままの意味さ」

 両手を頭の上に上げながら、士郎は肩を竦めて見せる。

「気付いたらここにいた。しかも見覚えのないところだ。何故ここにいるのか、どうやってここに来たのかも分からん。こういうのは迷子と言えるだろう?」
「……まあ、確かにそうね」

 暫くの闔m郎をじろじろと見ていた女だったが、小さく嘆息すると、剣呑な気配を引っ込ませた。

「こんなとこでそんな変な格好してるから、あいつらの仲間かと思ったじゃない」
あいつら(・・・・)?」
「―――気にしないで」

 士郎の問いに小さく首を振って応えた女は、頭に被せていたフードを外した。そしてフードの下から現れたものを前に、士郎は大きく目を見開き驚きを示した。
 フードの下から現れたのは、二十前後の一種の凄みを感じさせる程の美しさを持つ美女だった。だが、士郎
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