その雨が恵みになると信じて
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を向けると、ボロボロになったティアが投げ出された人形のように転がっている。彼等が言っていたのはこの事か、と認識しつつ、痛む体を引き摺るようにして近づいた。
「おい、ティ……」
ア、と。
完全に彼女の名を呼ぶよりも早く、睫毛が震えた。開かれた瞳は状況が理解出来ないと言いたげに揺れ、それでも無理矢理に体を起こす。
ゆっくりと、目に闘志が戻る。ぱちりと瞬きをした時には、いつもの鋭い光が戻っていた。
「…何、その顔は。私が、この程度で…倒れるとでも?喧嘩売ってるなら後で言い値で買ってやるから……黙って、なさい」
ふ、とバカにするかのように笑って呟く言葉は途切れ途切れで、手放しそうな意識を必死に繋ぎ止めているようだった。
細く長い脚が震える。少しでも衝撃を与えればすぐに折れてしまいそうだが、それでもしっかりと立っている。所々破れたワンピースには血が滲み、地の色が淡いからかよく目立つ。
はあ、と大きく息を吐いたティアは、笑う。余裕なんて微塵も残ってないくせに、余裕たらたらに。
「あら、まだ生きてたの」
「そんな簡単に死ぬようじゃ、ガキの頃に死んでたわよ。そういうトコ…だけは、無駄に鍛えられてるの、私は」
今にもがくりと膝をついてしまいそうな状態で、ゆらりと猫背だった上半身を起こす。ニッと上がった口角はどこか清々しさを感じさせる。ぐいっと口元の血を乱暴に拭ったティアは、青い目を悪戯っぽく煌めかせた。
その姿にぞくりと背筋が震え凍る。今声を掛けてはいけない、近づいてはいけない、と警告されているようだった。
「ナツ」
「!」
「3分…いえ、2分でいい。時間を稼いで」
目を向けずただそれだけを呟いたティアをきょとんとしつつ見つめると、伝わってないと判断したのか溜息をついた。
じろりと目を向け射抜くようにこちらを見つめる目は、どことなく柔かい。伝う血の赤が白い肌によく映え、口元は拭ったからか掠れたように広く赤く染まっていた。
「勝つにはこの手しかないから……使うって判断以外はどうやったって出来ない。けど、“あれ”は詠唱が長いの。その間、あの女を引き付けておいて」
「けど、お前」
「言っとくけど、こんなザマだからって気ィ使う必要はないから。あれは私の獲物よ、それに手出しするつもり?」
「さっき“力貸せ”っつったのお前だろ!だったらオレの獲物でもある」
「だからアンタに任せてるじゃない」
心外だとでも言うように、ティアは僅かに目を見開いた。
意味が解らず首を傾げるナツに眉を顰めながら、ティアは言い聞かせるように呟く。
「アンタを信じて頼んでるの。だから、アンタも私を信じなさい」
向けられた目は、強かった。
これほどまでにボロボロな姿になっても、青い目からは力が消えない
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