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ラ=トラヴィアータ
第五章
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して圭は剣人の羊羹を受け取ったのだ。これは剣人にとって非常に有り難いことであり嬉しいことでもあった。これ以後圭はほんの少しだが皆の中に入り食事やお喋りもするようになった。そのまま撮影は終盤にも向かいいよいよクライマックスになろうとしていた。しかしその終盤に入ったある日のことだった。
「野上君」
 その日の撮影が終わったのは夕刻過ぎだった。圭は帰ろうとする剣人にそっと声をかけてきたのだ。
「ちょっといいかしら」
「はい?」
「今日。時間あるかしら」
 こう彼に声をかけてきたのである。
「今夜」
「今夜って」
「よかったら。夕食どうかしら」
 今度はこう言って来た。夕暮れの中長い影をその足から引かせながら。
「いいレストラン知ってるけれど」
「夕食って」
「この前の羊羹の御礼よ」
 表情を変えずに彼に話すのだった。
「それよ」
「羊羹のですか」
「ええ。だから」
 静かな調子で彼に対して言葉を続ける。
「来てくれるかしら」
「それじゃあ」
 彼はまさか彼女の方から声をかけられるとは思っていなかった。それでかなり戸惑っていた。しかし。それを彼が断れる筈がなかった。

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