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美山美森の美徳
第1ヶ条
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「ねえ伊笠、ビビちゃんに本当に告るの。」

 高校生活も2年目を迎えた初夏のとある昼休み。俺、伊笠日生(イガサ ヒナオ)は、クラスメイトにて幼稚園の頃から一緒の腐れ縁、津庭花陽(ツニワ カヨウ)にド直球の質問をぶつけられた。

「おい、あんまし大きな声で言うなよ。美山さんに聞こえちゃったらどうすんだよ。」

 花陽は小さく舌を出すと「ごめん。」と謝ってきた。昔からのこいつの癖だ。失敗したときに小さく舌を出す癖。花陽も可愛い容姿をしていて、こんなあざとい癖まで自然に繰り出してくる。男から人気があるのも何となく分かる気がする。

 だが、しかし、俺のヒロイン美山美森(ミヤマ ミモリ)程ではないがな。美山さんの綺麗で凛々しい目はカッコイイし、黒髪でショートカットというもの凄く体育少女の雰囲気を持っているのに美術部っていうギャップがたまらないし。笑うと凄く可愛いし、優しいし…。

 美山さんの良いところが止まらない俺の脳内を花陽の1言がピタッと止めた。

「ビビちゃんに私が言っといてあげるよ。伊笠から大事な話があるから放課後の教室で待っててあげて、って。」

 花陽はそう言うと、俺の必死の制止も無視して美山さんの元へ行ってしまった。

 そう、花陽にはおせっかいで人の話をよく聞かず行動しちゃう癖もあった。昔から花陽に振り回されっぱなしの原因である癖が。俺はたまらず大きな溜息をつく。

「って、俺本当に今日告白しちゃうのか、美山さんに。」

 変に緊張してソワソワしていたらすぐに放課後になってしまった。人が少なくなっていく教室で、チラッと美山さんの席のほうを見る。美山さん、まだ残っている。しかし、窓の外を眺める美山さんの横顔は凛々しくもあり、可愛い。

「やばい。本当に緊張してきた。ちょっとトイレに避難しておこう。」

 緊張のせいかお腹が痛くなってきた気がしてトイレにこもり、鏡の前で無駄な最後のあがきをして15分。恐る恐る教室のドアを少し開けて中の様子を伺ってみる。

「美山さんまだ残っている。」

 美山さんはまだ窓の外を眺めている。俺はゆっくりとドアを開けて教室の中に入った。

「美山さん、可愛い。」

 あ。

 ああああ。思わず心の声が漏れてしまった。散々、花陽の癖について文句を垂れていたが、ここにきて俺の悪い癖が出てしまった。思ったことがすぐ口に出ちゃう悪癖が。

「伊笠…くん?」

 さすがの美山さんも怪訝な表情を浮かべて俺の顔を見てくる。どうやら俺はスタートから盛大にこけたようだ。

「や、やあ美山さん。」

 さっきの一言は無かったことにして他の話を…、あれ、何も言葉が出てこないぞ。俺の頭は完全に真っ白のフリーズ状態になってしまった。

 放課後の二人だけの教室。
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