温泉旅行(前編)
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って来て「なぁ」といつもより高く声を掛ける。
「俺の、所為です」
すみません、というように頭を下げた。
正直泣きそうになる。
1時間も待っていてくれたのは嬉しかった。
けれど後々こうやって誰の所為だ、と問われるぐらいなら、あの時駅に居なくてりと自身があのメモ自体無かった事にしてくれた方が良かった。
そうしてくれた方が、今俺も泣きそうにならなくて済んだのに。
いつもの様に殴られたら俺は此処に存在している、けど殴られることに慣れは不必要なようで未だに殴られることには慣れていない。
俺は恐怖から泣き出しそうになっていた。
気が済むまで殴れなんて口にはしない。
「そうだな、お前の所為だな。お前の所為で俺は荷物をずっと持って……ずっと?」
「……?」
何か可笑しな事を言ったのだろうか、りとは顎に手を当てて何かを考え始めた。
その様子が俺にはよく分からなくて首を傾げていれば、りとは何事も無かったかのようにいつもの表情に戻った。
「いや、別に長時間持ってねぇな……お前が中央駅に来たのが7時5分前だろ。俺が来たのが6時5分前だろ……っで、俺駅に着いて切符売り場に行って、……あ」
りとは自分のしていた行動を口に出していき、最後は何かを思い出したように表情を引きつらせて、俺の顔を見ていた。
不思議と予想が出来るのは気のせいで良いのだろうか。
多分感情に任せて放った言葉が間違っていたんだろう。
「わりぃ……俺の間違いだった……」
普段謝る事をしないりとが謝罪した。
俺の体の中にある熱はとっくに冷めていて、殴られないことにホッと胸を撫で下ろす。
別に今此処に居る証明をしてくれなくても今はそれに悩んだりしていないので、殴られたら痛いだけなのを俺も冷静になって考える。
「……どんな?」
「どんなって、ただ駅で荷物持ってたの5分ぐらいだった。だからわりぃな」
「別に……」
何かが違うのは気のせいにしてはいけない気がしてた。
あれから何事も無く歩き続けて山の方に向かっていれば、1つの館が見えた。
木で出来ていて館に近付くに連れて、看板にぼんやりと書かれていた文字がくっきり見えてくる。
看板には『二階堂旅館』と木製看板に筆で書いたような字で書かれていた。
旅館、つまりは温泉、と言う風に捉えても良いのどうか判断がつかない。
「二階堂、旅館?」
聞いたこともない名前だなと思っていたら声に出ていたのか、隣でりとが微笑した。
笑われた事に少し不快な思いをしていれば塩水の匂いがした。
そもそも塩水に匂いがあるのかも怪しいが耳を済ませていると波の音が聞こえたので海だと脳で判断し、塩水の匂いがしたと思ったんだろう。
二階堂旅館は引き戸でガラガラと昔懐かしく戸を開けると、立派な
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