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温泉旅行
温泉旅行(前編)
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に行くのか分からない。
ただ、りとはボストンバックを掛けている右肩を痛めているのか、時々手を当てていた。

「……荷物持つの、代わろうか?」

少し躊躇い気味に尋ねる。
りとは足を止めて、俺の方に振り返った。
右肩を押さえたまま。
何が入っているのかは分からないが、様子からして重たいのだろう。
俺が遅刻したのもあり長時間1人で荷物を持っていたんだ、さすがにそろそろ交代した方が良いかと思ったので声を掛けてみたのだけれど、余計なお世話だったのだろうか。

「は?お前、遅刻した口でよくんな事言えるな。誰の所為で長時間荷物持ってんだと思ってんだ、あ?」

不機嫌だ。
明らかに不機嫌なのが伝わる。
振り返って眉を寄せ、俺を睨みつけ、腰に左手を当てて言っているりとが上機嫌に見えた人は眼科に行って貰いたい。
兄弟だから分かるものなのかもしれないが、多分誰がどう見ても不機嫌な表情をしているだろう。

「なぁ、誰の所為で俺は1時間も余分に荷物持ってんだ?」

腰に両手を置き俺の方に歩いてくる。
威圧が肌にピリピリと痛むぐらい張り付いている。
指を一本動かすだけでも、殴られそうな勢いでりとはゆっくりと俺の元まで歩いてくる。
身体中が熱くなり呼吸すらまともに出来なくて、逃げ出したいという恐怖を飲み込んで、俺の体温は上昇し、身体中が麻痺していることだろう。

りとは喜怒哀楽が激しく、気分屋だ。
自分が腹が立てば近くにあるものを壊していく。
何度家の中がぐちゃぐちゃになったことだろうか。
家の中にある物を壊しそれでも気が済まなければ俺を殴るのがりとが腹を立てた時の決まりなんだ。
どう考えても理不尽なのは理解している。
警察に言えば多分どうにかなるのではと何度も考えた事もある。
けれど俺が何故そうしなかったのは、殴られずに済んだ時は俺の中に熱が残っている。
恐怖という名の「存在証明」が。

自分の存在証明の為に殴られ続けて、その度に俺はそこに存在しているという錯覚に浸っている。
実際人は「死」を迎えない限り存在はしている。
けれど自分で自分が存在しているのかどうか分からない場合いがある。
一時的にか長期で自分が存在しているのか、そう考える人が居る。
俺はずっと自分は存在しているのかと考えている。
それを証明するのがりとに殴られることだ。

それでもやっぱり、殴られるのは恐い。

田舎だからか、全く人の気配がしない。
周りは木と道のみ、誰か来るのか怪しい。
日当たりは悪くないので多分人は通るのだろうけど、朝早くには数人しか通らないのだろう。
きっとこの状態を見ても誰も止めには来ないだろう。
否、来ないで欲しい。
来てしまえばその誰かは病院行きだ。

そんな事を考えている内にりとは目の前にや
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