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温泉旅行
温泉旅行(前編)
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はまず死を覚悟しないといけない。

「どこに行く気なんだい?」

まず口を開いたのはしわがよく目立つ老婆。
しわがあるわりには表情の一つ一つが認識できて、声が高い。
俺は窓の外を見ながら必死に会話を振られないようにしようと心がけている。
悪い人達には見えないが、俺の兄は不機嫌になると手を出してしまうので怖い。
それで警察にお世話になってしまったら、俺はどうすることも出来ない。

「ちょっと、遠出をしようかと思っただけです」

そんな事を思っていれば普段とは全く違う落ち着いた声が隣から聞こえた。
俺は窓際でりとは通路側、俺の目の前に老翁、りとの目の前に老婆が居る。

「遠出は儂らもようやった」

ホホホッと昔を懐かしむように言う老婆にりとは笑みを溢しながら「弟と出かけたことが無かったので、一緒にどうかなと思ったんです」と柔らかく告げた。
多分嘘なんだろう、けれどりとの返答にすれば珍しいので俺は窓からりとの方へと視線を向けていた。
りとがこんな風に話すのを初めてみた俺はどういった気持ちになったのかといえば、それはあまり誰にも知られたくない。
多分自分自身でも知りたくないのだろう。

「それでも良い思い出になるじゃろ」

老婆がそう言った途端にアナウンスが入り、次の駅名を告げる。
老夫妻は荷物をまとめ始めたので次で降りるんだろう。
電車でどこかに向かう時はやっぱり誰かに話し掛けられる。
いやな気分にはならないがその場に自分の知り合いが居た場合、何故か他人への返答にいちいち困ってしまう。
その返答で良いのか、他の人は違うように返答するのか、そんなくだらないことを思ってしまってその辺り俺は口下手な方だろう。

やがて電車の速度が落ちてぼんやりとしか見えなかった様々な輪郭はしっかりとした形を出して、そこに何があるのかを示している。
線路があり、駅のホームがあり、人が居る。
さっきまで全てがぼんやりとしか見えなかったので、改めてみてみると凄い速さで走っていたんだなと思い知らされる。
老夫妻は電車を降りて、改札口の方へ歩いて行った。

電車が発車し、暫くお互い無言でいた。
簡単に言うと辛い。
秋で肌寒い時期にまだ冷房な車内に居ることも、無言で目的地まで居るのも両方とも辛い。
中央駅に行くまでに掻いた汗が冷えているんだろう。
正直言って寒い。
脚を組みながら窓の外を見て寒さを紛らわすように腕を擦ってしていれば、赤いカーディガンが膝に掛けられた。
一瞬何が起こったのか理解が出来なくて何度も瞬きをしてると隣から「着とけ」と一言、声がした。
何かの間違いなのだろうかと思っているとそうでもないようで、りとは俺から顔を逸らして再び「着ろ」と言った。

「あ、有難う……御座います」

何故自分の兄
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