第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十六日・夜:『屍毒の棘』U
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しん、と。廊下の形に凝り固まったかのような、酷く落ち着かない静寂だった。何かが、手ぐすねを引いて待ち構えてでもいるように、焦燥とも緊張とも判別がつかない。
既に、足音は出していない。嚆矢も、勿論フレンダも。摺り足とまではいかないが、抜き足差し足忍び足と。
フレンダに手の動きで合図し、曲がり角で息を詰める。事前に頭に叩き込んだ地図の通りならば、その先には『再生医療科』の資料室がある筈。そして情報通りなら……そこには。
──予想通り……赤外線センサーか。あれに触れたら、五分と経たずに守衛と施設警備ロボットがお出迎えに来る。
まぁ、細工は既に施してるし、大した問題じゃないが。
暗視スコープを覗き、そこに映る幾条もの赤い光線を認める。それを、スコープを渡してフレンダにも確認させて。代わりに取り出したのは、『輝く捻れ双角錐』内蔵の懐中時計、現在時刻は二十二時五十九分五十五秒。正にグッドタイミング、嚆矢はフレンダに向けてパーの猫の手を見せて……カウントダウン。
三、二、一、零。刹那、スコープに映る赤い光線が一気に消えた。『アイテム』の雇ったクラッカーが、上手くクラッキングに成功したらしい。確か、強能力者以上の『電撃使い』のハッカーだと言う話だ。
フレンダとサムズアップを交わし合い、慎重に扉を開く。無論、『馬鹿が見る豚のケツ』を警戒して、嚆矢が。
開けてみれば、どうやら扉には紐で警報がセットされていたらしい。しかし、その機構も『運良く』紐が扉から外れてしまった事で不発に終わっている。
「んじゃ、早速捜索ね。こっちを先に終らせる訳よ」
『オーライニャアゴ』
面倒げに口にしたフレンダに、嚆矢は特に反論なく同意した。何せ、意外と広い研究室だ。一々、時間は掛けていられない。手分けして探す研究資料。鍵の掛かった場所などは、ショゴスを鍵穴に侵入させて解錠しながら。
だが、資料は皆無。これと言ったものは一切見付からない。徒に時間のみが浪費され、遂にはクラッカーが指定した『抑えておける時間』を迎えてしまう。
「っ……結局、長居は無用ね。離脱する訳よ」
『オーライニャアゴ』
如何にも、苦渋の決断とばかりに口にしたフレンダ。それに対して、嚆矢は特に反論なく同意した。
余りにも、軽く。余りにも、平然と。それは或いは、不真面目とも捉えられかねない響きで。
「あんた……本当に真面目に探したんでしょうね?」
そんな風に、フレンダでなくとも疑念を抱いても仕方無い程で。じとりと、睨み付けるように。『アイテム』の構成員、暗部に生きる人間らしい、酷薄な眼差しで。
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