第十二章
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第十二章
だが話はそれからだった。花束を受け取った剣人に対して圭がそっと囁いてきたのだ。
「椿のことだけれど」
「さっきの椿のことですか」
「ええ。わかってくれたかしら」
こう囁いてくるのだった。
「あの意味が。どうかしら」
「はい、わかりました」
さっきスタッフから聞いたということは隠していた。
「そういうことだったんですね」
「わかってくれたのね。それじゃあ」
「いいんですね?僕で」
「ええ。いいわ」
静かに微笑んで囁いた言葉だった。
「それよりも。どうしてなのかしら」
「どうしてって?」
「私でいいのね」
今度の囁きはこれまでの囁きとはまた違っていた。
「本当に私で」
「圭さんだからです」
彼は誰にも聞こえないように、圭にだけ聞こえるようにして彼女に答えたのだった。
「貴女だからです」
「だからなのね。あの時も」
「このことは嘘じゃないです」
こうも言う剣人だった。
「圭さんじゃないと」
「だから私も」
剣人のその言葉、いやそれとはまた別のものを受け止めての言葉だった。こうしてその二つのものを受け止めてからまた述べるのだった。
「野上君でないと。駄目になったの」
「僕だからですか」
「私の全てをわかってくれて。それで愛してくれるのね」
「はい」
また静かに圭に述べた。
「だからです。だから僕は」
「そう。それだから私も」
「そうなんですか。それで」
「部屋に来て」
今度はこう囁いてきた。
「これが終わったらね」
「部屋って」
「それで。ずっと一緒にいましょう」
圭はそっと剣人に寄り添ってきた。
「一緒にね。いましょう」
「有り難うございます」
二人の結婚が発表されたのはこれから一年後のことだった。その時圭は長い間見せたことにない、いや生きてきた中で最高の笑顔を見せていた。それはもう道に迷っていた女の顔ではなかった。道を見つけた女の顔であった。その顔で剣人と結ばれたのだった。その道と。
ラ=トラヴィアータ 完
2009・3・22
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